〜 告白 〜
 第二章
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<13>
 クラウド
 

 

 

 

 それから数刻も経たず、点呼の号令の変わりに、教官の来訪があった。

 これは異例のことだ。

 伝達事項がある場合には、共有部分の掲示板に貼られるし、緊急時は放送が流れる。

 こんな風に、寮の部屋まで教官がやってくることなど滅多にない。

 

『今夜は寮を利用しているソルジャーや一般兵が多く出払っている。よって修習生は、なるべくひとまとまりになっていること』

 

 つまり、本来であれば、必ず自室にて就寝しなければならないところ、今夜は特別ということらしい。

 ノックの後、すぐにドアを開けられたおれたちは、てっきり叱られるものと覚悟したが、教官は咳払い一つ残して、そう告げて出て行った。

 

「……なんだろうね。そこら辺曖昧にしてたけど、教官なら修習生の質問には、誠実に回答してもらいたいもんだね」

 ぼそりとルーネスがつぶやいた。

「おい、ルーネス! 何をいきなり突っ込んだ質問してるんだ! 教官に向かって…… 私は肝が冷えたぞ」

「まぁまぁ、イングズ。……ちょっとカマをかけてみたんだけど、悪かったかな。あんなに動揺するとは思わなかったんだ」

「まったく……私は班長として……」

「ねぇ、じゃあ、今日はおれとアルクゥ、ここにいていいの?」

 ふたりの話に割って入り、最も訊きたかったことを口にした。

「え…… あ、ああ」

 イングズが、一瞬、何をいわれているかわからなかった様子で瞬きした。

「ふふ、クラウド…… 可愛いなぁ」

 またもやルーネスが、頭を撫で撫でしようとする。

 寮の規則は厳しくて、こんな風に友だちの部屋へ泊まることなどできはしない。

 だったら、それが一番の関心事になるのは当然なのに。たった一つ違いなのに、彼はいつでもおれを子供扱いするのだ。

 

「まぁ、せっかく明日は休日なのだ。こうして親交を深めるのは悪くない。茶でも淹れよう」

 無愛想なイングズが、テキパキと茶器の用意する。

「あ、おれも手伝う」

 慌てて立ち上がる。

「いや、クラウドは客人だ。座っていてくれ。ルーネス、早くしろ」

「ハイハイ」

 面倒くさそうに動くルーネスだが、それでもミニキッチンで茶葉を吟味している様子だった。

 

 

                                          

 

 

 

「結局、カップ三つで足りちゃったね」

 ルーネスが言った。

 彼のベッドで、スゥスゥと寝息を吐いて丸まっているのはアルクゥである。

「昔っから、暗くなるとすぐに寝ちゃうんだ」

 愛おしげにそう言って笑うと、ずれていた毛布をかけ直してやっていた。

 ルーネスは、とても頭が良くて、気がつく人なんだけど、表立って動き回ることはほとんどない。だから、成績はすごく良いのに、あまり目立つことはない。

 おれなんて、もったいないと思うけど、『面倒くさい』で済ませてしまうのだ。綺麗で賢い彼と、仲良くなりたい同期はたくさんいるのに。

 それでも、同郷で年下のアルクゥや、おれにはとてもやさしくしてくれるのだ。

 同室のイングズも、以前からの知り合いらしいが、ひとつ年上で班長ということもあるのか、わりとクールな対応に見える。

 

「やれやれ、どこに配属されるかわからないけど、社員になったら残業もあるだろうに」

 ふぅ、とため息を吐いてルーネスが戻ってきた。

「おい、茶が冷めたぞ」

「飲み頃だろ」

 イングズのセリフに、軽くそう返すルーネス。

「なんかいいなぁ。やっぱり昔からの付き合いって」

 慣れた感じのやり取りが、少しうらやましくてそう言ってみた。

 一瞬、ふたりは驚いたようにこっちを見たが、すぐにルーネスはいつもの微笑を浮かべた。

「おれも、誰か友だちと一緒なら、入社試験や入社式のとき、あそこまで緊張しないで済んだのに」

 もっとも、ニブルヘイムの片田舎に居たときでさえ、まともな友だちも作れなかったのだけど。

「ああ、ふふ、そういうことか。クラウド、そんなに緊張したの?」

「するに決まってるじゃん! おれなんて、田舎出身だから、まず神羅ビル見た瞬間、足が震えちゃってさ。入社式のときだって……!」

 そう……ミッドガル行きの汽車が遅れたせいで、同期のみんなと一緒に式場へ行けなかった。

 それどころか、広い中庭で道に迷い……

 

 ……雑誌や本でしか見たことの無かった英雄……

 セフィロスさんに逢ったんだ。