〜 告白 〜
 第二章
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<14>
 クラウド
 

  

「そうそう、入社式。さすがに神羅の英雄に、君が連れられて来たのは驚いたよ」

 ルーネスが楽しそうにそう言った。

「ああ、あれはクラウドだったのか。私の席からはよく見えなかったが」

「いいんだよ、イングズ! もうッ! 知らないでいてくれたほうがよかったのに〜!」

 思わず大声を出してしまって、おれは慌ててアルクゥを見遣った。

「はは、大丈夫。アルクゥは一度眠りに着いたら、そう簡単には目を覚まさないよ」

「ルーネス、入り口に近かったの? そこからはこっそり移動したつもりだったのに」

「まぁ、ね。やっぱり、俺も軍人希望で入社したんだから。セフィロスさんのことは注目してるよ。この前の研修旅行で命賭けでクラウドを救ったのも、あの人だからできたことだろうし」

 そうなのだ。

 おれは、もう三度もセフィロスさんに命を助けられている。

 

 一度目は入社式への道程で。

 二度目は研修旅行で。

 三度目はついこの前、テロリストの占領したレストランで。

 

 え?

 入社式での道案内は違うだろうって?

 とんでもない! あのときのおれは、もし道を訊ねた人に冷たくされたら、その場で舌を噛んでしまうくらいの精神状態だったのだから!

 

 そのセフィロスさんが、おれのことを好きだって。

 恋愛感情で好きなんだって。

 

 初めて告げられたときは、よく意味がわからなかった。

 でも、おれだって、もうちゃんとわかっている。

 彼は最初からとてもやさしかった。好意を隠すことはなかった。

 

 それが、特別な感情であると気づかなかったおれを、無理強いすることはせず、ただ見守ってくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

「どうした、クラウド? 急に黙って」

 イングズの呼びかけで、ようやく物思いの淵から生還した。

「セフィロスさんのこと、考えてた?」

 ルーネスに図星を突かれ、それをごまかそうとして、さらにドツボに嵌ってしまう。

 おれはすぐに赤くなっちゃうし、思ったことが顔に出るらしい。

 ついこの前も、

『タークスへの配属だけは難しいだろうな。ま、いいじゃん、おまえはソルジャー志望だろ』

 と、ザックスにからかわれた。

 

「う、うん…… 今日はセフィロスさんいないから、みんな大変だなぁって」

 なんとか取り繕ってみたけど、言葉通りに受け取ったのはイングス班長だけだ。

「そうだな。ルーネスの話の通りなら、研究所の被験体で、特殊なモンスターだというのだから」

「でも、市街地のほうの電波も復旧しているし、ざわついた様子もないから一段落着いたんだと思うけど」

 ルーネスがそう言った。

 電波だのなんだのと、どうやって調べているのか全くわからない。

 でも、大抵ルーネスが『大丈夫』といったことは、無事に終わるのだ。それは彼のずば抜けた洞察力によるものだろうけど、おれには魔法のように見える。

 

「きっとジェネシスさんやアンジールさんが頑張ったんだよ。もちろん、ザックスさんも」

 ルーネスの言葉に頷いた。

「セフィロスさんも、もう大分いいみたいだけど、まだ病棟ごもりだよねェ。ねぇ、具合はどうなの、クラウド?」

「え、あ、あの、よくわかんないけど……」

「クラウド、お見舞いに行ってないの?」

「う、うん、その……あの……」

「当たり前だろう。セフィロスさんの病室はVIP専用のフロアだ。修習生がおいそれとい入り込める場所ではない」

 至極真っ当な発言は班長イングスだ。

「あ、う、うん……気後れしちゃうし、一度行ったけど場違いかなって」

 

 そう、そうなんだよな。

 セフィロスさんと俺とじゃ釣り合わない。

 『場違い』なんだ。

 

「でもさ、クラウドは事件の当事者ってことで、メディカルセンターにも顔パスでしょ?きっとセフィロスさん、君の来訪を待っていると思うんだけどた」

 ずくんと胸が痛む。

 会いたい。

 会って顔を見て、もう一度謝って、怪我の具合を訊きたい。

 でも……でも……今はどんな顔して会えばいいのか……答えだってまだ……

 

「どうした、クラウド? ……泣き出しそうな顔をしているぞ」

 イングスが腫れ物に触るように、慎重に問いかけてきた。

「え、ううん、何でもない」

 あわてて頭を振る。

 だが、そんなおれの態度など完全に黙殺し、ルーネスがたった一言、

 

『もうさァ、素直に認めちゃったら?』

 と、言った。