〜 告白 〜
 第二章
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<15>
 クラウド
 

  

「セフィロスさんのこと、好きなんでしょ?」

 いかにも今更だろうというため息混じりで、ルーネスが言った。

「ル、ルーネスッ! 何を突然……今はそんな話などしていないだろう?」

「あー、もうわからないんなら、イングズは黙ってて。クラウドの今後にとっては大事なことなんだから」

 赤面して慌てるイングズを適当にいなし、ルーネスはズイと身を乗り出してきた。

 

「ねぇ、クラウド?」

「うん……好き……なんだと思う。でも、セフィロスさんの『好き』は、なんだかすごく切実な感じがして…… あんなに真剣に思ってもらえるような人間じゃないよ、おれ。まだ何にもできないもん。セフィロスさんにしてあげられることなんてないし、足手まといになるのは嫌だ」

 明敏なルーネスならば、どうすればよいのか教えてくれるかもしれない。

 正直に答えた俺に、ルーネスは教会の天使のように微笑んだ。なぜか、聞き手に回っているイングズまでもが、彼を見て顔を上気させる。

「……クラウドは素直で正直だね。きっとセフィロスさんは、そんなところも好きになったんだろうね」

「おれ……セフィロスさんが、ルーネスと話してたの見て、ヤキモチ焼いた……」

 言いたくないことであったが、気がついたら勝手に口が動いていた。

「えぇッ? いつの話? 俺、セフィロスさんとまともに話したことなんてあったっけ?」

「いや、私は知らないぞ。一体いつのことだ!?」

 何故か当人よりも熱心にイングズが訊ねてきた。幼なじみとはいえ、いささか熱が入りすぎだ。気圧されるようにおれは応えた。

「研修旅行が終わった後……俺が懲罰房行きになっちゃって……そのとき……」

「あぁッ!」

 ぽんとルーネスが手を打った。

「ハイハイ、思い出したよ。ノートを届けに行ったんだよね。そうしたら、セフィロスさんが居てさぁ。守衛さんが別室で小さくなっていたから、何があったのかと思って慌てて入っちゃったんだよね」

「うん……」

 曖昧に頷いたおれを割って、イングズが、

『何かされたのか!?』

 などと訊ねている。

「まさかぁ、クラウドの前で修習生相手に何もするはずないでしょう。最初、『なんだ、貴様』って凄まれたんだけど、クラウドの親友だと言ったら、途端に態度がかわちゃってさ〜」

 思い出し笑いがとまらなくなったのか、ルーネスは、ケラケラと声を楽しげに声を上げた。

「『おまえ、名は?』って訊いてきて、挙げ句の果てには『この子をよろしく頼む』って……! あっはっはっは、ごめんごめん、そんな顔しないでクラウド。セフィロスさん、すごく心配してたんだよ。ひとりきりでこんな場所にってさ」

「……ルーネスのこと、『プラチナブロンドの頭のいい子』って言ってた。綺麗な子だって。ジェネシスさんやザックスもそう言ってる」

 恨みがましい物言いにならないように気をつけて、憮然としたままそう言い返した。

「えぇ? ホント? そんな話聞いたこともなかったけど、俺?」

「……ルーネスのことほめてるセフィロスさん見てたら、なんだか苦しくなった。ヤキモチだとしたら、どっちに焼いているんだろうと思ったけど…… でも、おれ……わかったんだ」

 

 

 

 

 

 

「……おれ、セフィロスさんに認められたかった。ただ、『好き』っていうだけじゃなくて……  おれのほうが先なんだと思う。……たぶん、入社式のときからもうとっくに『好き』になってた」

「クラウド……」

「……セフィロスさんのこと、好きだ。他の誰よりもおれのこと見てて欲しい。でも、それだけじゃダメなんだ。おれ、強くなりたい。頭もよくなりたい。釣り合いのとれる人間になりたい……! でなきゃ、セフィロスさんのこと、好きだなんて言えないよ……ッ」

 ボロボロと涙がこぼれる。

 別に泣く理由なんてないのに、勝手にあふれ出してくるのだ。

「ちょっ、ちょっと待ってよ、クラウド」

 ルーネスがさすがに慌てたように、おれをなだめにかかった。

「別にセフィロスさんが、そんなことを望んでいるわけじゃないでしょう?」

「で、でも、おれ……おれ……このままじゃ……」

「だいたい『釣り合いのとれるように』って相手は、神羅の英雄って人なんだよ。俺たち修習生が彼と遜色なくなんてのは到底無理……」

「そ、そういうことじゃなくて!」

 さらに涙が溢れてきて、おれはルーネスの言葉に覆い被せるように言い募った。

「軍人としてなんて偉そうな意味じゃないんだ。修習生の中でもおれって落ちこぼれだし……いつも、イングズやルーネスに助けてもらって……せめて、もうちょっとしっかりしたくって。おれがルーネスみたいだったらって……」

「お、おい、クラウド、泣くな」

 イングズが箱ティッシュを手渡してくれる。

「それこそクラウドの勘違いだよ。セフィロスさんが好きになったのは、そうやって一生懸命頑張っている姿なんだと思う」

「で、でも……」

「本当だってば。そうやって毎日努力しているクラウドを好きになったから、告白したんだよ。クラウドもセフィロスさんのこと好きなら、何も迷う必要ないでしょ」

「そ、そうかなぁ、そうなのかな」

「い、いや、ちょっと待ってくれ、『告白』というのは?そ、そんな出来事があったのか?」

 イングズが夜にもかかわらず素っ頓狂な声を上げたが、おれはそれさえも気にならなかった。