〜 告白 〜
 第二章
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<22>
 ジェネシス
 

  

 

「……というのがこちらからの報告。ねぇ、ツォン。そんな俺に何の説明もないわけ?」

 難しい顔をしたタークスの主任に、笑顔を向けてそう訊ねてやった。

「君の部下もあのモンスターにやられているんだよね。もうちょっとこっちに情報くれてもいいんじゃないかな。感謝状なんて欲しいわけじゃないんだよ」

「……実験生命体については、最高機密という話だ。私に話せることは何もない」

 ツォンは眉間にしわを寄せてそう言った。

「最高機密ね。それ、だれが言ったんだい」

 なおも訊ねる俺に対して、ツォンはますます眉間のしわを深くした。

「軍事部門の総括と研究部門の総括……つまりは経営側の判断なんだ」

「ところで、副社長は知っていたのかな」

「ルーファウス様はご存じないことだ。耳に入れるのもやめて欲しい」

 俺の言葉に覆い被せるようにそういう様が、あまりにも滑稽で苦笑した。

「君の大事なお坊ちゃんには、ショックを与えたくないってことかい。呆れたね」

「…………」

 ツォンはぐっと息を詰めた。

「『あれ』をセフィロスが見たとしたら、どれほど彼がショックを受けるか考えたことある?」

「……私には何も言えない」

 顔を背けてそうつぶやく。

「俺はね、セフィロスを傷つけるものは許せないんだよ。わざわざその理由までいうつもりはないけどね。……もし、今回の一件を副社長の耳に入れた方が効果的だと判断したら、俺は勝手にそうさせてもらうよ」

「ジェネシス!」

 怒気を孕んだ声が俺の名を呼ぶ。

「きっと、ルーファウスぼうやは大いにショックを受けるだろうね。大好きなセフィロスを原型にとって、こんな醜悪なモノを神羅が作り出していると知ったらね」

 言いたいだけ言い置いて、俺はさっさと席を立った。

 ツォンが何か言ってくるかと思ったが、彼は口を開かなかった。

 

 

 

 

 

 

 執務室に戻ると、今度はテンションの高い英雄が待っていた。

 すでに彼はさっさと退院しており、私室に戻っている。現金なものだ。

「よぉ、ジェネシス、なんだ、しけたツラして!」

 ばんばんと力任せに背中を叩かれて、俺はため息を吐いた。もちろん、セフィロスのテンションが高いのには理由があった。

 例のクラウド少年からの、告白への返事があったということだ。しかもそれは『OK』という返事……つまり、クラウド少年も、セフィロスのことを特別に想っているという返事だったのだ。

「……おまえはずいぶん元気だね。ついこの間まで病棟に居たとは思えないほどにね」

「たりめーだろ。オレとクラウド……あぁ、これからはバラ色の日々が始まる。チッ、ったく貴様にも、あの子の可愛らしい告白を聞かせてやりたかったぜ」

「……それどころじゃない状況だったんだろ。チョコボっ子は背中を怪我していたみたいだし」

 背中の皮一枚といった傷であったが、今度はチョコボっ子がメディカルセンター送りになってしまっている。もちろん、セフィロスは毎日仕事の合間に……もとい、見舞いの合間に仕事をしているといった有様であった。

「おぉ、それな! 病棟で寝ていたオレに、万一のことがあったらと思ったら、矢も盾もたまらなくなって飛び出してきたそうだ。あの子の愛と勇気は……」

「あーハイハイ。いずれにせよ、チョコボっ子もあの程度の怪我で済んでよかったな。あれだけ、神羅側に怪我人や死人が出たんだ。背中をひっかかれただけというのは幸運だったと思うよ」

 まんざら冗談でもなく俺はそう言った。

「しかし実験動物とはな。……こいつは一般にはオープンにしにくい情報だな」

 さすがにセフィロスも、それくらいは理解しているというのだろう。

 神羅の実験生命体が、街を破壊し、人を襲ったなどというのは、企業のイメージダウンどころの話ではない。

 実際、神羅の広報は、真実をひた隠しにしたままだし、内部においても、それの情報は、完全にシャットアウトしている。

 セフィロスの模倣でつくられた、あの実験体のことは、このまま闇に葬られることになるだろう。

 俺にとっては神羅本社の態度は、不愉快なことこの上なかったが、あまりに騒ぎ立てて、セフィロスが例の動物の遺骸を見てしまうことこそ、避けて通りたい事態であった。