〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<1>
 ザックス
 

  

 

「おめでとう、クラウド!」

「よ、よかったな」

「本当によかったね〜」

 社員食堂の一角で、クラウドは仲の良い同期の仲間にひっそりと祝われていた。

 俺、ザックスがそこに同席しているのは、ルームメイトとしてのよしみであり、クラウドの兄貴分として認知されているからだろう。

 ちなみに今のセリフは上から順に、ルーネス、班長のイングズ、そしてアルクゥだ。

「しーっ!しーっ!大きな声出さないで。人に聞かれちゃうよ」

 クラウドがそういうと、ルーネスが綺麗な形の唇をくいっと持ち上げて笑った。

「もう、今さらじゃないの〜。セフィロスさんとクラウドが社食でご飯食べてるの、いいかげんみんな知ってるし、お休みの日に一緒に出掛けるのを見た子も多いんじゃないかな」

「ルー、ルーネス〜……そ、そうかもしれないけど、やっぱりちょっと恥ずかしいし……」

 クラウドのセリフにさらに笑みの色を強くして、ルーネスが言葉を重ねる。

「わかってるわかってるって。さて今日はじっくりとコトの経過を教えてもらわないとね。ずっとぐずぐずしていたクラウドが、どうやってセフィロスさんに気持ちを伝えられたのか興味あるんだよ」

「お、おい、ルーネス。確かに俺も興味を引かれるが、あんまり突っ込んだ話はクラウドだってしにくいだろう」

 班長のイングズがいかにもそれらしいしかめつらでそう言った。聞き手に回っている俺から見ると、こいつらみんなの個性がよくわかるやりとりだ。

「じゃあ、イングズは黙って聞いててね。それに『突っ込んだ話』って……俺はまだ彼らはそこまで行っていないと思うけど?」

「い、いや、そう意味の突っ込むではない!何を言ってるのだ、ルーネス!」

 真っ赤になって慌てるイングズを、ルーネスがからかう。

「ああ、ほらほら、クラウドが困った顔してるよ〜、ふたりとも声を小さく小さく」

 アルクゥが周囲を見まわして、しーっと指を立てた。

「そうだね、まず第一報は俺たちだけに、静かにゆっくりと語ってもらおうか。ザックスさんも興味ありますよね。あれほど心配していたんだから」

 ルーネスが空になった食器を、机のはじにひとまとめにすると、身を乗り出してきた。

 名指しされてしまったので、それに頷く。

「まぁ、俺としてはもうなんつーか、ホントにそれでいいのかと言いたくなるわけだがなぁ」

「ザックス!おれ、ちゃんとセフィロスさんのこと好きだよ。ホントだよ」

 クラウドが必死にそう言い募る。

「いや、断固反対って言ってんじゃなくてよ。だが、あのクソ我がままでエロ大魔王相手だと考えると……」

「ザックスってば、シツレーだよ。セフィロスさん、やさしくていい人だもん!」

「まぁまぁふたりとも。だからよけいにコトの過程が気になるでしょう?」

 ルーネスが俺たちの間を割って入った。

「そ、そうだな、さしつかえなければ、友として、班長として話を聞かせてもらおう」

 ごほんと咳払いをしてイングズが頷いた。

 アルクゥは飲みかけの紅茶をすすりながら、静かに聞いている。

 

「ん……だからね、あの日、モンスターを避けながら、セフィロスさんの入院部屋までなんとか辿り着いて……自分でもよくわからないんだけど、そのとき、すごく感じたの」

 実験動物でモンスターと化したバケモノに襲われ、命からがらメディカルセンターに辿り着いた時のこと、そんな場合だったのに、どうしてもセフィロスに答えたくてたまらない気持ちになったこと……

 上手ではなかったが、クラウドは少しずつ言葉を噛みしめて、話をした。

 

 そう、その日から、何の特技も能力ももたない修習生のクラウドは、神羅の英雄の恋人になったのだ

 

 

 

 

 

 

「……というわけでね、よ、ようやく『好きです』って言えたんだよ」

 最後にそう言って話をまとめた。

「そっか〜、クラウド、がんばったじゃん。よく言えたよく言えた」

 ルーネスがクラウドのおでこをつんと指で弾き、そう言って拍手した。アルクゥは眼鏡の中のつぶらな瞳を大きくして頬を染めている。

「……ごほん。いい話だったな。まぁ、何にせよ最初は楽しいものだ。これから互いのことをいろいろと知り合うわけだしな。だが、初心忘れるべからずだぞ。付き合いが長くなると、ついついボロが出てくる」

 妙に感慨深げにそう言ったイングズを、なぜかルーネスがぽかりとげんこつで殴った。

「で、でも、つい最近の話だからさ。まだ、お付き合いするって言っても具体的にどんなカンジになるのかわからないし」

 クラウドは正直に言った。確かにそのとおりだろう。普通の十五才よりも、さらに幼い雰囲気のこいつが『大人の付き合い』をよくわかっていないのは当然にも思えた。

 すると繊細に整ったルーネスの美貌がふんわりと蕩けた。

 テーブルに放り出したままだったクラウドの手を握りしめ、聖母のような微笑みを浮べる。

「フフフ、まぁ、相手はセフィロスさんだからね。そのあたりのことは、みんな彼に任せておけばいいよ」

「そうだよね、おれ、よくわかんないし」

 クラウドが正直にそう言った。

「そうそう、そこがクラウドの可愛いところでもあるしね」

 ルーネスが何度も頷いてそう言う。

 

「でもね……まだ、不安がなくなったわけじゃないの」

 クラウドがそう言うと、同期の少年たちは顔を上げて彼を見つめた。

「お、おれ……セフィロスさんのこと好きなのは本当だけどさ。全然つりあわないの、自分でもよくわかってるんだ」

「クラウド……でも、セフィロスさんは……」

「う、うん、セフィロスさんも好きって言ってくれるから、それを信じたいけど……でも、おれのダメダメなところ見て心変わりされたら嫌だし、もっといろいろとがんばらないと……おれ」

 ずっと考えていたことを口にした。

 今期の修習生の中で、クラウドの成績は中の下だ。努力家なのだが要領が悪い。、ルーネスやイングズのようにトップ層に入れる子ではないのだ。

 きっと彼は、『このままではいけない』と思っているのだろう。

 せめて真ん中より上に行かなくちゃ、と。

「大丈夫だ。クラウドは努力家だからな。そういう気持ちを大切にして頑張れば、絶対に成績も上がるだろう」

 イングズが生真面目な顔をしてそう言ってくれた。

「うん……ありがと。一生懸命やってみるよ」

 クラウドは班長の言葉に素直に頷き返した。

「セフィロスさんに恥ずかしくないように、しっかり勉強して、本も読んで、実技もこなして……」

「おいおい、いきなり頑張りすぎだろ、クラウド。これまでどおりの努力を続ければそれでいいんだ」

 俺の言葉に納得がいかない様子のクラウドであったが、他のメンツはうんうんと頷いてくれた。