〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<2>
 ザックス
 

  

 

「あっさ〜だ、朝だーぞ、いい天気だ〜ッ!」

 

「……ちょっと、セフィロス」

「なんだ、朝っぱらからしけたツラしやがって!ほら、外見てみろ、太陽が照り輝いているぞ!」

「……大声でやめてくれよ。頭に響く……」

 執務室の窓際に陣取って、大声で雄叫びを上げる英雄に、ジェネシスが文句を言うが、そんな苦情などどこ吹く風だ。

 ちなみに俺は、任務のことでアンジールと打ち合わせのため、1stの執務室に来ていたのだ。

「あぁ、さわやかな朝だな!そう思わんか。そら、太陽がこんなにサンサンと……」

「……ここのところ、ずいぶんとご機嫌だな。つい最近までメディカルセンターにいた人物とは思えないほど」

 ジェネシスが嫌みっぽくそう言うが、彼はまったく堪えていなかった。

「フン、もともとオレの怪我なんざたいしたことはなかったんだ。メディカルセンター入りはクラウドのためだからな」

「……あきれた。よくもいけしゃあしゃあと言えたもんだね」

 両手を放り出して、頭を振るジェネシスのジェスチャーに、

「ふふん、今のオレは心が広くなっているからな。同僚の愚痴でもなんでも聞いてやるぞ、ジェネシス」

 と頷き返し、ため息を吐かれている。

 太陽に向かって体操をしているのをやめ、ようやくセフィロスは執務机に腰掛けた。

「例のモンスター騒ぎから一週間も経っていないのに……」

 俺がそう言うと、

「あたりまえだ。あの極限状態でクラウドからの告白を聞けたのだからな。今となっては思い出深い」

 と返事をするのであった。

「思い出にするには新しすぎるんじゃないの。……もっともおまえはモンスターと接触はしなかったようだから、あまり実感がないのかもしれないが」

 ちらりと彼の表情を盗み見て、ジェネシスが言う。

「そうだな、あのときはテメーに手柄を譲ってやったからな」

 脳天気な返答に、ジェネシスが笑った。

 実験動物のモンスターを見た者は少ない。俺も結局目視することは出来なかった。

 ジェネシスと、タークスのレノが討ち取ったという情報だけで、メディカルセンターの職員に被害が及ばなかったのは良かったと言えよう。

 

 

 

 

 

 

「浮かれるのはけっこうだがな。相手はあの子供じみた少年なんだからな。おまえの望むような付き合いが、できるようになるのには時間がかかると思うぞ」

 パソコンをいじりながら、ジェネシスが言う。別にこれは嫌みではない、ただの『事実』を告げたつもりなのだろう。俺もそう思う。

「フン、何とでも言え。これで晴れて天下無敵のカップル誕生だ!さぁて、今日もさっさと雑務を終えて、社員食堂へ行かねば。クラウドが待っているからな」

 ふんふんと鼻歌交じりにセフィロスが言った。

 

 神羅の英雄と誉れ高いセフィロス……

 ……だが、そんな英雄の素顔を、多少なりとも俺は知っている。

 

 その剣の腕、戦闘能力はまさしく、その名のとおり最強だ。どんなミッションでも難無くこなす力量を備えている。

 だが、剣の技量を抜きにして彼を見れば、思いの外、抜けているところがあるのだ。

 

 寒暖に無頓着で、晩秋にノースリーブを着てきて、寒いと文句を言ったり、挙げ句の果てには風邪を引き込み、メディカルセンターまで、俺とアンジールが送り届けるハメに陥った。

 クラウドのこととなると、猪突猛進で何の駆け引きも考えず、その身のまま体当たりだ。

 神羅の英雄と呼ばれる彼と、入社したばかりの修習生が交際するということが、周囲にどんな影響を与えるのかということさえ、想像すらしないでいるのだ。

 

「セフィロス、幸せそうなのはかまわないけどね。前にも言っただろう?クラウドはまだ修習生なんだ。アンタとつりあいのとれる相手じゃない」

 俺はアンジールからもらったレジュメをファイルに仕舞いながらそう言った。

「だから、なんだ?」

「周囲にねたまれでもされたら、やっかいなことになるぞ」

「そんなおおげさな。修習生なんざ、みんな、ガキみたいなもんじゃねーか」

 事態を正確に把握していない英雄は、さもくだらないという様子で言い返した。

「同じ子どもだからよけいに心配なんだろ。それに『子ども』は修習生だけじゃないからな」

 セフィロスに思い入れがあるのは、何もソルジャーに憧れている修習生ばかりではない。

 ルーファウス副社長だって、まだ十代のお子様なのだ。

 暗にそうほのめかしたが、どうやらテンションの上がりきった英雄には聞こえていないようであった。