〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<3>
 ザックス
 

  

 

「クラウド、こっちだ、こっち!」

 セフィロスが両手を振って、呼んでいる。

 メディカルセンターを引き上げ、もとのプライベートルームに戻った彼は、毎日夕食を取りに、わざわざ寮の食堂までやってくるのだ。

「デケー声出すなよ、ただでさえ、アンタは目立つんだからな」

「テメー、ザックス。何しに来やがった」

 見ればわかるだろうに、英雄はさも不満げにツケツケとそう言った。

「俺とクラウドは、晩飯、いつもここなの」

 寮に併設されている社食は、本社の気取ったフードコートとは異なり、盛りだくさんで安い定食が並んでいる。

 クラウドたち修習生が利用するのはもっぱらこの社員食堂なのであった。

 そこに『神羅の英雄』がいる……それだけで悪目立ちをするのは当然のことだ。ちょっと想像すればわかることなのに、当の本人は何の衒いもなく、堂々とこのやっすい食堂に入ってきている。

「セフィロスさん、お仕事、終わったんですか?」

 桜色の頬をピンクに染めて、クラウドが可愛らしく問いかけた。

 ……いや、別に本人は特別かわいこぶっているわけではないのだが、もとの造形が愛らしいため、こんなふうに頬を染めるととびきり可愛く見えるのだ。

 俺はいたってノーマルだが、クラウドや、こいつと同期のルーネスなどの美少年を見ていると、男に走るヤツの気持ちがわからなくもない。

 

「おい、ザックス!テメー、少しは気を使えよ。せっかく晴れてカップルになれたというのに邪魔しやがって!」

 クラウドが食器を取りに席を離れた隙を狙い、セフィロスが俺の腕をぐいと引っ張った。

「アンタな!むっさいヤローがいっぱいのこの定食屋で、何しようってんだよ。ただでさえ、アンタは目立つんだ。クラウドとふたりきりだったら、よけいに悪目立ちするだろ!」

「フン、オレ様は別にあの子と付き合っていることを隠すつもりはない。ようやくクラウドから好きと言ってもらえたんだ。これからはバラ色の……」

「はいはい、バラ色でも何色でもいいからよ。そういうのは休みの日にしてくれ。平日は任務優先、クラス1stとしての自覚を持って社内ではデレデレするな」

「オレがいつデレデレなぞした!」

 真顔で言い返され、俺は大きくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「……クラウド、そこ、どうした?」

 食事の途中で、セフィロスが声を上げた。ごく自然な動作で、クラウドの細い腕を取る。ちょうど手の付け根のところといえばいいだろうか。青黒くアザが出来てしまっていた。

 今朝まではそんな傷はなかったはずだ。同室の俺が気付かなかったからだ。

「あ、教室移動の時、人にぶつかって転んじゃって。あぁ、やだな、青くなっちゃっている」

「おい、大分ひどく打ったんじゃないか。医務室で湿布もらうか?」

 色が白いせいだろう。打ち身で青黒く腫れているその部分がひどく目立つ。

 俺がそう言うと、クラウドは頭を振って、

「全然大丈夫だよ、もうたいして痛くないし」

 と、請け合った。

「……誰にやられたんだ」

 低い声で訊ねるのはセフィロスだ。

「え、隣のクラスの人ですけど、ただぶつかって転んだだけですから」

 密かに怒りのオーラを醸し出すセフィロスに気づきもせずに、クラウドはふたたびパクパクとオムライスを頬張った。

「クラウド、おまえはどこもかしこも綺麗で可愛いんだからな。気をつけなければダメだぞ」

「は、はい、ついうっかりしました、ハハハ」

「いいか、もし、誰かに故意に傷つけられることなどがあれば、すぐにオレ……私に言うのだぞ」

 すでに空っぽになった食器を脇によけて、セフィロスが身を乗り出す。

「おい、セフィロス、大事にするなよ。ただ転んだだけと言ってんじゃねーか」

 俺は敢えて、クラウドの味方をしてそう言った。セフィロスの懸念はわかっている。自分と交際することになって、クラウドが誰かにねたまれ、傷つけられるのではないかという心配だ。

 そんなことセフィロスに言われるまでもなく、俺だって気にしている。

「でも、セフィロスさんが心配してくれて、嬉しいです。もっと気をつけるようにしますね」

「クラウド……」

 セフィロスは指をワイパーのように立て、チッチッチッと舌打ちをした。

 ……何をかっこつけてんだ、このオッサンは。

「もう、私たちは天下に認められた正式なカップルなのだぞ。いつまでもセフィロス『さん』ではいけないな」

「え……で、でも」

「私のことはセフィロスと呼べ。ほら、言ってみろ」

「え……えぇ……そんな、おれ、セフィロスさんを呼び捨てになんて……」

 クラウドはデザートのプリンも食べかけのまま、あわてて首を振った。

「私がいいと言っているんだから気にする必要はない。ほら、『セフィロス』だ。言ってみろ」

「ハイ、ごちそーさまでした!さ、今日は課題があるんだったよな、クラウド!」

 俺はそう言って、もじもじと手いたずらをしているクラウドの腕を引っ張り上げた。

「じゃーな、セフィロス。また明日ッ!」

「あ、ザ、ザックス?あ、あの、今日はありがとうございました。セ、セフィロス……」

 名残惜しげにプリンの残りを眺めているクラウドを急き立てるようにして、俺たちは自室に戻ったのである。