〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<4>
 ザックス
 

  

 

「ザックス、急にどうしたの?まだプリンちょっと残ってたのに!」

 クラウドが不服そうに頬を膨らませる。

「プリンどころの話じゃないだろ。ほら、左手出せ、一応湿布しておいてやる」

 俺はそう言って、手早くクラウドのアザを手当てしてやった。

「ザックスも、セフィロスさんも大げさだな。ちょっと転んだだけなのに。そりゃ、そのときはすごく痛かったけど……」

「あたりまえだ。鬱血しているくらいだからな。誰にやられたか覚えてるか?」

「だから……隣のクラスの……名前まではわかんないよ。それに俺が勝手につまづいて転んだだけだから」

 ……そうだろう。クラウドの性格に鑑みれば、きっとそのように考えるだろう。

 誰かが悪意を持って、『わざ』と足を引っかけたなどとは思うまい。

 

「ね、ねぇ、ザックスはおれがセフィロスさんと付き合うのに反対……?」

 上目がちで俺を見て、クラウドは訊きにくそうにつぶやいた。

「いや、それはおまえとセフィロスの問題だろ?俺は賛成とか反対とかそういうふうには考えたことはねぇな」

「やだ、ザックス、なんか突き放したような言い方……」

「別にそんなんじゃないって。おまえはセフィロスがいいんだろ?まぁ、正直、ティファちゃんがいるのに、なんであの英雄を選ぶかなとは思うが……」

 そういうと、クラウドはコロコロと笑って、机の上の写真立てを取り上げた。そこにはティファちゃんとふたり並んで撮った写真が飾ってある。

「ティファは幼なじみだよ。確かに仲はいいけど、そういうんじゃないもん」

「そうらしいな。……な、クラウド、こんなこと言いたくないけど、しばらく身の回りには気をつけろや。その怪我もおまえがつまづいて転んだっていうのなら、それを信じるけど、念のためにな」

「……うん、わかったけど。ザックスはわざとやられたと思っているの?」

 ここにきて、ようやく不審そうにクラウドが訊ね返してきた。

「そうは言ってないだろ。ただ、セフィロスは修習生にとってはあこがれの的だ。それだけは忘れるな」

「そうだね……でも、セフィロスさんじゃないけど、隠れてこそこそするのは嫌なんだ。セフィロスさんとご飯食べたり、出掛けたりするのって、おれにとっては大事な時間になっているし」

「そりゃそうだな。ま、おまえには仲のいい連中もいるし、それほど深刻に心配しているわけじゃないから気にすんな。ほら、課題があるんだろ、見てやるから、さっさと済ませちまえ」

 そう促すと、クラウドはさっそくというようにテキストを机の上に引っ張り出した。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ザックス、どうしたの、難しい顔して」

「別にしてねーよ、これは地顔だ」

 ティールームで茶をしばいていた俺に、声を掛けてきたのはジェネシスだった。

「セフィロスとクラウド少年が晴れてカップルになっちゃって、お兄さん役としては複雑な心境ってところ?」

 椅子を引いて同じテーブルに着く。

「そんなんじゃねーって。まぁ、ただ少々落ち着かない気分にはなるな。セフィロスのヤツはまわりを気にしないし、クラウドもそれほど敏いワケじゃないからな」

「なに?さっそく嫌がらせでもあったの?」

「違う……とは思うが、正直よくわからん。この前はスッ転んで手にアザを作っていて、今朝がたはテキストを無くして探し回っていたんだ。ここのところ、つまらないハプニングに見舞われているようでな」

「おだやかじゃないね。怪我はひどいの?」

「いや、手首にアザ作った程度で済んだ。テキストも視聴覚室に置きっぱなしってことで、一応解決はしているんだ」

「ふぅん……」

 艶やかに整った顔に頬杖をしてジェネシスが相づちを打った。

「本人にも気をつけるように言ってあるから、大丈夫だと思うけど。……あ、湿布が切れてたんだ。後でメディカルセンターにもらいに行かなきゃ」

 クラウドの手首に巻いている湿布のことだ。それを思い出して席を立った。

「相変わらず面倒見がいいね、ザックスは。メディカルセンターまで俺も付き合うよ」

 ジェネシスはそういうと、一緒に歩き出した。

 

「セフィロスはどうしているの?何か変ったことはあった?」

 そう訊ねるジェネシスに、反対に俺は言ってやった。

「あの人のことはアンタのほうがよくわかってんだろ。相変わらず社食に顔を出すわ、風呂場を覗こうとするはで……は〜、欲望に忠実に生きているよ」

「ふふふ、セフィロスは楽しそうだねぇ。まぁ、ずっと想い続けていた初恋が叶ったんだ。浮かれてしまっても致し方がないかな」

「初恋ねェ……なんかあまりにもセフィロスに似合わない単語で気色悪い」

「失礼だね、ザックス。恋にときめいているセフィロスは、案外可愛らしいものだよ」

 エレベーターに乗って、メディカルセンターに向かいながら、俺たちは話していた。

 クラウドの湿布をもらうだけだから外来窓口で、すぐ済む。

 受付に声を掛けようとしたところで、俺はクラウドの声を耳にした。

「ザックス……あれチョコボっ子じゃないのか?」

 ジェネシスが診察室を顎で示した。