〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<5>
 ザックス
 

  

 

 俺たちはメディカルセンターの職員に止められないのをいいことに、診察室にずかずかと足を踏み入れた。

 クラウドは背を丸めるようにして、左手を右手で押さえていた。

「ザックスさん?」

 付き添ってきたらしいルーネスとイングズが俺に気付いた。

「クラウド、どうしたんだ!?」

「あ、ザ、ザックス……手のひら……切っちゃって……」

 たどたどしくクラウドがつぶやく。

「手のひらを切ったって……どんな状況だったの?」

 穏やかに落ちついた声で、ジェネシスが付き添いのふたりに訊ねた。

「それが……野外訓練で運動着に着替えようとしたときなんです。クラウドのバッグにカッターの刃が紛れ込んでいて、それをもろに握ってしまったらしくて」

 ルーネスが答える。

「……痛いよ、ザックス」

 半べそをかいたクラウドがつぶやく。

「ドクター、傷口は深いの?」

 ジェネシスが訊ねた。

「ええ、すっぱり切れてしまっていますが、縫うほどではないでしょう。血止めをして、今日は左手を使わないようにしてもらいます」

「そうかい。ほら、チョコボっ子。ちゃんと手当てしてもらいなさい。大丈夫だよ、それほど深い怪我じゃないそうだ。左手を心臓より上に上げて」

 ジェネシスがそういうと、縮こまっていたクラウドは、ようやく顔を上げて手を差し出したのであった。

 

「ルーネス、イングズ、ちょっと……」

 俺はふたりを呼ぶと、ジェネシスと一緒に、診察室を出た。

「ザックスさん、ジェネシスさん、これって……」

 俺たちが何か言う前に、明敏なルーネスが口を開いた。

「カッターの刃か、危ないな。嫌がらせにしても悪質だ」

 ジェネシスが頭を振ってため息を吐いた。

「やっぱりこれって、誰かがクラウドを狙って、傷つけようとしているんでしょうか。運動着の袋の中にこんなものを入れられるなんて、同じ修習生としか思えない」

「ルーネスくんの言うとおりだろうね」

 俺が何か言う前に、ジェネシスが同意を示した。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり妬みなのか……」

「修習生の中には、セフィロスさんの信奉者も多いですからね。クラウドとのことは、もうほとんどの人たちが知っていると思うし」

 ……案じていたとおりになってしまった。

 神羅の英雄とただの修習生……この組み合わせに納得していない連中は間違いなくいるはずなのだ。

「カッターの刃は?証拠物件だろう」

「あります、これ……です」

 ジェネシスの言葉に、イングズが布に包んだそれを持ち出した。鋭利な刃物がクラウドの血を吸って、鈍い色に光っている。

「ルーネス、イングズ、ここだけの話、誰か心当たりはないのか?」

 俺の言葉に、ふたりは顔を見合わせた。

「……はっきりしたことは言えないです。セフィロスさんを尊敬している連中はいっぱいいますし」

 曖昧なことは言えないと考えてのことだろう、ルーネスもイングズも口が重かった。

「ところでこのことをセフィロスは知っているのか?」

 ジェネシスがそう訊くと、ふたりは頭を振った。

「いいえ、教室からまっすぐメディカルセンターに来ましたから。途中でもお会いしませんでしたし」

「あ〜、また大騒ぎになるぞ。それがよけいに嫌がらせを誘発することも考えずに」

 俺はため息混じりにそう言った。セフィロスの反応など火を見るがごとくだ。

 それで犯人が見つかればよいが、まず無理だろう。よけいにクラウドへの反発を強める結果になるかもしれない。

「……ふぅ、今日の授業はもう終わりだよな。俺がクラウドを連れて行くから、おまえたちは先に戻っていいぞ」

「はい……」

「ルーネス、イングズ、すまないが、クラウドのことちょっと気をつけて見ていてやってくれるか?」

 俺は同じ班員のふたりにそう声を掛けた。

「はい、もちろんです。俺は班長ですし」

 イングズがしっかりと応えてくれた。

「ザックス、チョコボっ子の手当てが済んだようだ。来い」

 ジェネシスに声を掛けられて、俺はルーネスらと別れた。