〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<6>
 ザックス
 

  

 

 

「クラウド、大丈夫か、立てるか?」

 俺がそういうと、クラウドは青ざめながらでもしっかりと立ち上がった。

「も、もう大丈夫。血を見たら少し気持ち悪くなっただけで……」

「災難だったな、チョコボっ子。今日は大人しく部屋に帰って休むんだな」

「ジェネシスさん、はい……そうします」

 しゅんと潮垂れたまま、クラウドが頷いた。

「……セフィロスと付き合うというのはこういうことなんだ」

「お、おい、ジェネシス」

「怖くならないか?」

 ジェネシスがずけずけと訊ねた。

「……これ、やっぱり、セフィロスさんとのことの……」

 まだ信じられないように、クラウドは包帯を巻いた左手を見つめた。

「そうだろうね。カッターの刃が自分で袋に潜り込むはずはないし、セフィロスと付き合う以前はこんなことなかっただろう」

「そ、それは……そうですけど」

 クラウドが言い淀む。

「おまえの覚悟が決まっているんならそれでいいんだ。これからも身の回りには気を付けるんだぞ」

 ジェネシスはそれだけ言い残すと、先に執務室へと戻っていった。

 

「クラウド、部屋へ戻ろう。気分が悪いなら少し休んでいこうか?」

「大丈夫……寮に戻るよ。ひとりで平気だから」

 クラウドが弱々しく微笑んでそう言った。

「俺も今日はもう仕事上がりだ。一緒に行くさ」

 励ますようにそう言って、クラウドの肩に手を回した。

 

 

 

 

 

 

 夕食の時間になって、俺たちは食堂に行った。

 案の定、英雄はいつもどおり、指定席と言わんばかりのテーブルで大胆に手を振っていた。

 しかし、彼はクラウドの手の包帯を見ると、ぎょっとしたように目を瞠った。

「どうしたんだ、これは……!」

 白い包帯の巻かれた手を取り、セフィロスが訊ねる。

「大丈夫です。ちょっと……切っちゃっただけで……」

「ちょっとではないだろう?こうして包帯を巻いているのだから」

「おい、セフィロス。あまり強く握るなよ。クラウドが痛いだろう」

 俺はクラウドの手を握りしめている、ヤツの指を外した。

「アンタが大騒ぎするのは迷惑なんだよ、ほら座れよ」

 腰を浮かし掛けていたセフィロスに、そう声を掛ける。

「馬鹿野郎!これが騒がずにいられるか!クラウド、手を切ったとはどういう状況で負傷したんだ?この巻き方なら手のひらの方だろう?そんな場所を……」

「そ、その……カッターの刃を握ってしまって……」

 隠すことはできないと考えたのだろう。辿々しくも彼は正直に説明した。

 

「……では、誰かがバッグの中に刃を忍ばせたというのか……?」

 セフィロスは低くつぶやくと、クラウドではなく俺の方を見た。確認するような眼差しだ。

「考えたくはないがそれしかありえない」

 俺はそう応えた。

「……オレのせいか」

「ち、違います。セフィロスさんの……セフィロスのせいじゃない」

「クラウド……」

「大丈夫です。これからはもっと注意します」

 セフィロスに預けてた手を取り戻して、健気にもクラウドが言った。

「すまん……もっとオレが気を使ってやれればよかったものを……」

 まるで自身の掌が傷付いているように、ぎゅっと手を握りしめてセフィロスが言う。この人がこんなふうに苦しげにものを言う様を初めて見た。

「や、やめてください。セフィロスさんが謝る必要なんて、何もありません。おれ、最近浮かれてたから……そんな様子を見られて頭に来た子がいるのかもしれないし」

「おまえが楽しそうでどこが悪いと言うんだ!ただの八つ当たりだろう!」

「で、でも、セフィロスさんはやっぱり神羅の英雄で……みんなの憧れの的なんだから。おれももっと自重するべきでした」

 クラウドはそこまでいうと、サッと席を立ち上がり、食事のトレイを手に持った。

「きょ、今日は課題がいっぱいあるので、先に戻ります!ザックス、セフィロスさんとゆっくりしておいでね。じ、じゃっ!」

 足早に食堂から出て行くクラウドを、俺とセフィロスはただ見送るしかなかった。