〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<7>
 ザックス
 

  

 

 

「はぁぁ〜〜〜っ」

「……おい」

「はあぁぁぁぁ〜〜〜」

「おいってば。あからさまにそんなデカイため息吐くなよ」

 大げさにも両手に顔を埋めて、深いため息を吐くセフィロスに声を掛ける。この構図はまた別の意味で目立ってしょうがない。

「クラウドにあんな大怪我負わせて……くそっ、なんてこった」

「大丈夫だよ、縫うほどの傷じゃなかったし。本人も痛くないって……」

「バカ野郎!我慢しているに決まってんじゃねーか!可哀想にあんな可愛らしい手に……」

「おい……めそめそ泣くなよ。アンタはとにかく目立つんだからな。図体もデカイし……」

「クラウドの痛みを思いやれば、自然に涙が出てくるというものだ」

 セフィロスはぐしぐしと顔を擦り上げ、形だけは綺麗に整った顔面をゆがめている。

「まぁ、これまで何もなかったほうが不思議だったのかもな。中身はどうだとしても、アンタは英雄と言われる男だ。取り巻きもいただろう?そういう連中をすべて捨て去って、クラウド一本に絞ったわけだからな。誰かの恨みを買っていたとしても不思議はない」

「おい、テメー、妙に落ち着いてやがるな!だいたい同室の貴様がもっと気をつけてやってれば、あんな怪我など……」

「無茶言うなよ。修習生の授業参観をしてるほど、俺は暇じゃないぜ」

 そう言いはなった俺に、セフィロスが

「オレは授業参観がしたい」

 と斜め上のセリフで迎撃する。

「とにかくあの子自身も気をつけるって言ってただろう。アンタも大騒ぎせず、落ち着いて見守ってやれよ」

「それで真犯人が見つかるというのか!?ただ黙って眺めているだけで、下手人がわかるんなら苦労などせんわ!」

 苛立たしげにセフィロスが叫んだ。

「アンタが騒げば騒ぐほど、相手の行為はエスカレートする可能性もあるんだぞ。はっきりしたことがわかるまで、とにかく静かにしていてくれ」

 そう言い置くと、俺はあきらめて席を立った。これ以上、セフィロスと問答していても埒があかないと思ったからだ。

「おい、ザックス。……何かあったら、必ずオレに言えよ。隠し事なんぞしやがったら……」

 そう言って凄むセフィロスを横目に、俺は私室に戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 一見無事に数日が過ぎ去った。

 クラウドが怪我を負うことはなかったし、事態は沈静化しているようにも考えられた。

 

 だが、クラウド自身はそう思ってはいないようだ。

 それは授業が終わって、部屋に戻ってきた本人から聞かされた。

 

「……見張られている?」

 俺は二度その言葉を繰り返した。

「う、うん……」

 クラウドが頷く。部屋までついてきたルーネスとイングズも難しい顔をしている。

「どういうことだ?誰に見られているって言うんだ?」

「それは……よくわかんないんだけど……」

 クラウドが口ごもる。

「本人にもよくわからないそうなんです。ただ他人の目線を感じるとか、そういう程度の話らしくて」

 困ったようにルーネスが言った。きっと、俺に相談する前に、クラウドはルーネスとイングズに話をしたのだろう。

「まぁ、あのセフィロスと付き合っているんだ。ものめずらしくて眺める連中もいるだろうよ」

 俺がそう言うと、クラウドは首をぶんぶんと振った。

「そういうカンジじゃないんだよ。にらみつけられているような……すごく冷たい視線を感じるんだ。昨日階段から落ちそうになったときも、そんな目線を感じて……」

「だが、突き飛ばされたとか、そういう話ではないようなんですよ。視線に気をとられたら、足を踏み外しそうになったということですから」

 今度はイングズがそう言った。

「おいおい、自分の方で気にして転けそうになってたんじゃ、どうしようもないだろ。気をつけろよ、クラウド」

「それは……わかってるよ。でも、気持ち悪いんだ。何もされないで、ただじっと睨み付けられてるのって……」

「そりゃ、いい気分じゃないだろうが…… あッ、しまった!」

 なにげなく壁時計を眺めて、俺は飛び上がりそうになってしまった。

「ザックス、どうしたの?」

 とクラウドが訊ねてくる。

「今日の夜は会食があるんだ。アンジールの代わりに呼び出し受けてる」

 この夜の会食は、副社長が毎月一日セッティングしているイベントだ。ソルジャークラス1stと主立ったタークスの連中と席を共にしてなごやかに過ごそうという、まぁ表向きは優雅な会食なのである。

 アンジールが出張中ということで、親しくしているクラス2ndの俺に白羽の矢が立ったというわけだ。

 肩の凝りそうな夕食会など、本当は遠慮したくもあったが、お名指しとなれば仕方がない。