〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<8>
 ザックス
 

  

 

 

「悪い、おまえら。先に風呂もらって出掛けるわ。クラウドのこと、頼んだぞ」

 ルーネスとイングズにそう声を掛ける。

「もちろんです、ザックスさん。クラウド、俺たちと一緒に晩飯にしよう。風呂はそれからでいいだろ」

 ルーネスが意気消沈気味のクラウドの気を引き立てるようにそう言った。

「おまえもいつまでもしょげているんじゃないぞ。後悔はしてないんだろう」

「セフィロスさんとのこと?もちろん、後悔なんて一度もしたことないよ!」

 クラウドが強気でそう言った。

「そんなら堂々としていろ。じゃあな」

 クラウドたちを残して俺はさっそく会食の準備に走った。

 

 風呂から上がり、フォーマルとまではいえないが、一応襟のあるシャツを着込んで、俺は本社の最上階へ向かった。ここには賓客をもてなすサービスルームや、ホールがある。

 指定された部屋へ着くと、俺以外はほとんど集まっている様子だった。

 

「す、すんまっせん、遅くなりました!」

 慌てて、指定された席に着く。テーブルの上にはナイフやらフォークやらが所狭しと並んでいる。マナーにうるさそうな、こういう飯は気疲れするのだが。

「おせーぞ、ザックス。腹が減った」

 隣の席だったセフィロスが、ガンと俺の着席した椅子を蹴り飛ばす。

「悪かったっつってんだろ。……いろいろあるんだよ、人の気も知らないで」

 セフィロスに八つ当たりするのは見当違いであったとわかってはいるが、クラウドの悩みはすべてこいつとの付き合いに起因する。そう思ってしまうと、大人しく蹴り飛ばされるのは納得がいかない気がした。

 

「やぁ、これで、みんなそろったかな。楽しい夕食会を開こうか」

 鷹揚にルーファウス副社長が声を掛けた。

 ちなみの席順は、前方お誕生席にルーファウス神羅、すぐ次の向かいの席に、セフィロスとジェネシス、そしてセフィロスの左隣が俺なのだ。

 

 

 

 

 

 

「おい、ザックス、クラウド、どうしてる?」

 静かなクラシックの流れる中、セフィロスがとなり席の俺に声を掛けてくる。言っておくが、ヤツの斜め前はルーファウス副社長が座っており、真正面はジェネシスだ。

 ジェネシスがあわてふためく俺を見て、クスクスと楽しげに笑った。

「デケー声で、至極プライベートな話をするな!」

 俺は声を殺して低く怒鳴った。

「なんだよ、別にかまわんだろ。手の怪我の具合はどうだ。食事はちゃんとしているのか?昨日今日は会えなかったからな、心配しているんだ」

「しーっ!しーっ!だ、大丈夫だよ、ちゃんと元気にやってるから!」

 料理の味もわからぬほどに気まずい。なぜなら、先ほどからちらちらと副社長がこちらを眺めているからだ。

 副社長はセフィロスを気に入っている。そのお気に入りが修習生と恋仲になったと知れば、不愉快なことこの上なかろう。

 

「なんの話かな。なにか気になることでもあるのか、セフィロス」

 優雅にナイフとフォークをあやつりながら、ルーファウス副社長が訊ねてきた。

「え、あ、い、いや、何でもないッス!ただの世間話なんで……」

 と俺が言いかけたのをまるきり無視して、セフィロスがひどく不快げに口を開いた。

「クラウドが手を怪我したんだ。仕込まれたカッターの刃でな。まったくひどいことをするヤツがいるもんだ。相手がわかればただじゃ置かないが……」

「おい、セフィロスってば、い、今はどうでもいいことだろう!?」

「いいわけねーだろ。本当は今日だって、一緒に居てやりたかったのに」

 いかにも夕食会が迷惑だといわんばかりの物言いで、セフィロスが言い放つ。

「クラウド…… 聞いたことのある名だな。修習生のことかな、ザックス」

 セフィロスを飛び越えて、俺に名指しが来た。

「え、ああ、そうッス、俺と同室で……ははは」

「クラウドはオレの恋人だ」

 その太い声は、バックに流れるクラシックの名曲を打ち消さんばかりに、広いホールに鳴り響いた。