〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<9>
 ザックス
 

  

 

 

「セ、セフィロス、アンタな!」

「くくくく、まったくセフィロスは開けっぴろげだなぁ、ああ、おかしい」

 へらへらと笑っているのはジェネシスだ。

「いやね、ルーファウス副社長。セフィロスはめでたくも、クラウド少年を恋人にできたわけなのだけれど、最近、その子のまわりで奇妙なトラブルが起こり始めたんだ」

「お、おい、ジェネシス。アンタ、なんで……」

「いいから。黙っている方が不自然だろう?副社長も聞きたそうだ」

 白ワインを片手にジェネシスが語り出した。

「そうだな。……セフィロスに恋人が出来たとは初耳だった」

 わざとらしくルーファウス副社長がつぶやいた。

 知らなかったはずはあるまい。あれほど気に入りのセフィロスのことなのだ。クラウドを追いかけ回しているところだって見ているはずだ。実際、おたふく風邪でメディカルセンターに入院したクラウドの部屋で、セフィロスと進退問題を掛けたバトルを繰り広げた。

 

「クラウド・ストライフという可愛い子だ。つい最近両想いになった」

 どこまでも偉そうにセフィロスが宣う。

 ツォンなどは苦虫を噛み殺したような顔をしている。

「……クラウド・ストライフね。覚えておこう」

 すでに十二分に聞き及んだクラウドの名を口にすると、ルーファウスはワインを口に含んだ。

「それで……その子がどうかしたのか、ジェネシス」

「そうそう。大変なんだよ。転ばされて青あざを作ったり、カッターの刃をしこまれたりね」

 ちっとも同情していなさそうにジェネシスが言う。

「……なんだ、物騒な話だな」

 表面上は感情を表さず、ルーファウス副社長はつぶやいた。

「聞いたか!?なんて陰湿なイジメなんだ。可哀想にクラウドは手に傷を負って……オレが必ず犯人をつきとめて、正義の刃の元、まっぷたつに……」

 席を立ち、まるで新劇ばりのジェスチャーで叫ぶセフィロスだ。オレは必死にヤツの服を引っ張って椅子に座らせた。

「そうなんだよね。さすがにイジメの域を脱していると思うんだ。俺も知らない子じゃないからね。少々心配なんだよ」

 ジェネシスはそういうと、ちらりと副社長を見た。

 

 

 

 

 

 

「……修習生の間でそんなことが起こっているとは、困ったことだな。軍人になるための大切な訓練期間なんだ。有意義に過ごしてもらわねば……」

 教科書に出て来そうな言葉で、ルーファウス副社長は眉を顰め、指を眉間に当てた。

 その身振りが流れるようで、むしろおかしい。

「セフィロス……いつもの遊び相手ならば、相手が悪いと思うが。修習生となると過度に君たちに憧れを抱いているような子たちもいるからな」

「誰が遊び相手だ。クラウドはオレの大切な恋人だ。しかも初恋のな!フフフ、思い知ったか!」

 これまた勝ち誇ったようにセフィロスが宣った。

「まぁまぁ、セフィロス。いや、副社長。驚いたことに彼らは本当に好き合っているのだそうでね。俺もセフィロスの親友として彼を応援しているんだよ」

「…………」

 仏頂面のルーファウス副社長を横目に、ジェネシスは続ける。

「ただ、これ以上、クラウド少年に対して、いじめがひどくなるのなら考えなければいけないな」

「……いったい誰がその『いじめ』とやらをおこなっているのかは知らないが、止めるのはなかなか難しいのではないのか?」

「副社長もそう思うんだね。まったく困ったことだよ。なぁ、セフィロス」

「『なぁ、セフィロス』じゃねぇ!このオレが犯人を見つけて成敗してくれる!」

 どこまでも力強くセフィロスは言う。

「オレもおまえも年中、チョコボっ子にくっついて見張っているわけにはいかないだろ。いじめは用意周到に準備されているようだし、もしかしたら、誰かの指示を受けて動いている連中なのかもしれない。……そうは思わないか、副社長」

 最後の言葉はルーファウス副社長に向けて、ジェネシスが言った。

「……さぁ、私にはよくわからないが」

 と副社長が応える。

「クラウド少年のことを快く思っていないのは、なにも同期の子どもたちばかりじゃないってことさ」

「……まぁ、そういうこともあるかもしれないね。正直、私だって心地よいとは言えないよ」

 自分の方からルーファウス副社長が語り出す。

「最近のセフィロスは、食事会や懇親会にも姿を見せなくなったし、私も寂しい思いをしている」

 これは本音だったのだろう。憮然とした表情で彼はつぶやいた。

「仕方ねーだろ。クラウドと一緒のほうが楽しいんだ」

 セフィロスは平気な顔でそんなことを言う。一発ぶん殴ってやりたくなった。

「……ほらほら、セフィロス。そんなことを言って回ると、よけいに妬みの感情を引き出してしまうよ。さぁて、ごちそうさま」

 デザートまでしっかり食べて、ジェネシスが立ち上がった。

「セフィロス、チョコボっ子と楽しくお付き合いしたいのなら、まわりにも少しは気を使うんだな。それだけで大分矛先が躱せると思うよ」

 それだけ言い残し、ジェネシスはルーファウス副社長に一礼すると、先に部屋を退室していったのであった。