〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<10>
 ザックス
 

  

 

 

「待てよ、ジェネシス」

 俺も早々に席を辞して、ジェネシスの後を追った。

「ジェネシス、アンタ、なんか知ってるのか?副社長が関係あるとでも……」

「ザックス、声が大きいよ」

 しーっというように、指を俺の前に立てて、ジェネシスが笑った。

「セフィロスのせいで、食事会は葬式会場のように静まりかえっているはずだからね」

「そ、そうだな。だが、アンタ……」

 勢い込んで言う俺にジェネシスは、気怠げに頭を振った。

「まさか、副社長自身が、クラウド少年の着替えの中にカッターの刃を忍ばせたとは思っていないさ。実際、目立ってしまって不可能だろう」

「そりゃそうだよな。だが、アンタ、妙に副社長に絡んだじゃないか。アンタが何の考えもなく、ああいう態度をとるはずがない」

「ザックスもようやく俺のことをわかってくれるようになったんだね。うれしいなぁ。アンジールが任務から戻ってきたら自慢しよう」

 どうでもいいことを口にして、ジェネシスはくっくっくっと鳩が鳴くように笑いを堪えていた。

「そんな話はどうでもいいだろ!なぁ、クラウドのトラブルはやっぱり副社長が関係してんのか?アンタ、何かの現場を見たのか?」

「いいや、違うよ。もし現場を捉えたならさすがの俺も、直接、ルーファウス副社長に注意するさ」

「だったら……」

「いやね、よくわからないけど、副社長の指示で動かされている子がいたら可哀想だなと思ってね。修習生の子たちだって、セフィロスとクラウド少年のことをよく思っている連中ばかりじゃないだろう?そこに副社長があることないこと吹き込んだら、実際にチョコボっ子に手を出す子が出てくるんじゃないかと心配になったんだよ」

「そ、それじゃ……」

「だから、確定的な話じゃないんだよ。念のために牽制しておいただけ。副社長は何の関係もないかもしれないしね。それにしても、恋愛って人を狂わせるよね。セフィロスにしても、ルーファウス副社長にしても、俺だってそうだ」

 そう言いながら、ジェネシスは寮の方角へ歩いていく。ジェネシスたちの住まうエグゼクティブタワーとは反対方向だ。

「どこ行く気だよ、ジェネシス」

「ん?もちろん、チョコボっ子のところさ。少々気になるし、応援も兼ねてね。ザックスも来るの?」

「だいたい俺の住家はあっちなんだよ!」

 そういいながら、歩幅の大きなジェネシスの後を追った。

 

 

 

 

 

 

「クラウドとセフィロスさんが付き合うなんて認められない。だいたい自分で釣り合っていると思っているの?図々しいな」

「よく恥ずかしげもなく恋人とか言えるよね。あの英雄セフィロスさんを相手に」

 

 盛り上がっていたのは食堂から寮へ続く廊下のあたりだった。

 不穏な空気が流れ、皆が足を止めて争いの様子を眺めている。

 ジェネシスと一緒に外から戻ってきた俺には、最初何が起こっているのかよくわからなかったのだ。

 

「おまえ、自分でセフィロスさんと釣り合ってると思ってんのかよ」

 どんと突き飛ばされてクラウドが後ろに飛んだ。それをルーネスとイングズが抱き留める。

 

「おい、おまえら……!」

 割って入ろうとした俺を、ジェネシスが止めた。

「いいからいいから。今、いいところじゃないか」

「いいところってアンタ……!これじゃイジメだろ!?」

「イジメじゃないよ。堂々と言い合っているじゃないか」

 ジェネシスが興味津々でことの成り行きを眺めている。俺はすぐにでも飛んでいこうと考えていたのを、ぐっと踏みとどまった。

 

「なんとか言ったらどうなんだよ、クラウド・ストライフ!おまえなんて成績だって実技だって、全然たいしたことないだろ。それでソルジャーになれるのかよ」

 きついことを言われてクラウドの顔がぐしゃりと歪み、泣き出しそうなのを堪えて、ぐっと口を結んだ。

「そんな落ちこぼれが、セフィロスさんと付き合うなんて図々しいって言ってんだよ!」

 クラウドを取り囲んでいるのは、どうやら隣のクラスの生徒のようだった。三人の少年が彼を取り囲み、ルーネスとイングズがクラウドを守るように後ろに控えていた。

 

「お、おれは……」

 クラウドが必死に言葉を紡ぐ。

「おれは、確かにセフィロスさんと釣り合ってるなんて思ってないよ……」

 苦しげな声に嗚咽が混じるかと思った。だが、そうではなかった。