〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<11>
 ザックス
 

  

 

 

「今……釣り合ってるなんて思わない。でも……!でも、おれ、セフィロスさんのこと、好きなんだ……!みんなに何て言われても、やっぱり、どうしてもセフィロスさんは特別な人なんだよ……!」

 ……きっとこの場にセフィロスが居たら、クラウドを抱き上げてキスのひとつでもしているだろうに。

 ジェネシスもそう思ったのか、面白そうにクラウドを指さした。

「ごめん、みんな!みんなの言うこと……そのとおりなんだって思う。おれは落ちこぼれで、努力しなきゃいけないってそう思うよ。おれ、がんばるから……!」

「が、がんばって、セフィロスさんに釣り合うようになるっていうのかよ……?」

「なれるかどうかじゃない。そうなるようにがんばる!だから、セフィロスさんのこと好きでいさせて……!ううん、ダメだって言われても、もうこんなに……こんなに好きになっちゃってる……」

 クラウドが片手で口元を被って、涙を堪える。だが、大きな瞳からぼろぼろと大粒の雫が床に落ちた。

「うぅ〜ん、健気だなぁ。若いっていいよねぇ」

 ジェネシスが感慨深そうに言った。

 実際、クラウドの涙を見て、敵対していた連中も、なんとなく気まずい雰囲気になっている。

 

 ちょうど、そのときであった。

 廊下の向こう側から、ドスドスと地を駆ける音が聞こえたのは。

「クラウド!クラウド〜ッ!」

「セフィロスさん!」

 セフィロスはあっという間に人の輪を掻き分けて、半べそをかいているクラウドを、勢いよく抱き上げてしまった。

「クラウド、どうした、大丈夫か!?」

「セ、セフィロスさん……ッ!は、はい……だ、だいじょうぶ……です」

「やい、てめぇらッ!クラウドを泣かせたのはどいつだ!」

 セフィロスの剣幕に、修習生は皆押し黙って固まっている。イングズとルーネスまで顔を見合わせている有様だ。

「突き飛ばしたり、カッターの刃を仕込んだり、この卑怯者め!誰がやったかと聞いているんだッ!」

 まるで吠える銀色狼だ。

「まぁまぁ、セフィロス……」

 いつのまにかジェネシスが、俺の隣からすいと歩み出て、セフィロスの肩を手で引き戻した。

 

 

 

 

 

 

「おまえがそんなに怒鳴りつけたら、誰も何も言えなくなってしまうだろう?クラウド少年の決意を聞けたんだから、君たちももう十分だろう。ほら、早く部屋へ戻りなさい」

 ジェネシスがぱんぱんと手を叩くと、まるで凍り付いた足元の氷が割れたかのように、彼らは散り散りになって、自室へと消えていった。

「何をしやがるジェネシス。せっかく俺が犯人を追い詰めたところで……」

「もう大丈夫だよ。あの子たちは二度と手出しなどしないから。ね、チョコボっ子」

 と言って、クラウドの頭をぐりぐりと撫でた。

「ジェ、ジェネシスさん〜……」

「よく頑張ったね。あれだけの決意を聞かされたら、もうイジメなんて起こらないさ。チョコボっ子は目の前の目標に向かってこれまで以上に頑張れば、それでいいよ」

「は、はい」

 涙を拭いながら、クラウドがこくこくと頷いた。

「クラウド、部屋まで送っていくぞ。従者ABも一緒に来い」

 ルーネスとイングズを指さして勝手なことをいうセフィロスだ。だが、ノリの良いふたりはすなおにクラウドについて歩き出した。

 俺とジェネシスも少し遅れて彼らについて行く。

 

「……どうも当てが外れたかな」

 小声でそうつぶやいたのはジェネシスだった。

「なんだよ、それ」

 と聞き返す。

「うーん、どうかな。あれだけの反応じゃちょっとよくわからないな」

「だから何の話だってば!」

「しっ、大声を上げるんじゃないよ。……決まっているだろ。チョコボっ子のイジメの話さ。もっと奥に黒幕がいるのかと思ってたんだけど、あの様子じゃよくわからなかったね。本当にただ嫉妬だけで動いていた子たちにも見えたし」

「黒幕ってまさか……」

 俺はさっきまでの、ルーファウス副社長に対するジェネシスの態度を思い出していた。

「さぁ、ただちょっと気になっていたのでね」

 そんな風に言ってジェネシスは言葉をごまかした。

「おい、いくらなんでも(副社長に)失礼だろ!さすがにそんな陰険な真似はしねぇよ!」

「おや、存外……でもないか、ザックスは思った通り人がいいね」

 ジェネシスがからかうようにそう言った。俺はきびすを返しさっさとジェネシスの前を歩いていく。アンジールの席に、書類を置きっぱなしだったから、これから戻らなければならないのだ。

「あまり人を善意的に解釈ばかりしていると、いつか痛い目に合ってしまうよ、ザックス」

「面白がるな!それともからかってんのか。さっきのはどう見ても、同じ修習生らがイジメをしていた以外には見えないだろ。ルーファウス副社長は関係ない!」

 カッターの刃を忍び込ませるような真似をいじめで片付けてよいのかはともかく、さきほどの一幕はクラウドの発言とジェネシスの幕引きで一応の決着を見せていた。これから新たな騒動は起こらないだろうと安堵したところなのに。

「アンタはあまりにも人が悪すぎるんだよ。……なんだよ、俺はアンジールのデスクに用があるんだけど」

 歩調を合わせて、ビルに戻るジェネシスにそう言ったときだった。

 エレベーターの扉が開いて、歩み出てきたのは副社長とツォンだった。なんて鉢合わせだ。