〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<12>
 ザックス
 

  

 

 

 俺は気まずいのをひた隠しにして一礼したが、ジェネシスは相変わらずへらへらと笑みを浮べていた。

「……ジェネシス、ザックス。今、時間はあるだろうか」

 そう声を掛けてきたのはなんとルーファウス副社長だった。それが唐突な行為だったのは、側に侍っているツォンが、狼狽したような態度をとったことでわかった。

「ツォン、すまないが、先に行って話を進めておいてくれ」

 タークスの主任を先制して、ルーファウス副社長はそう言った。身振りで俺とジェネシスについてくるように促す。

 こうなっては致し方ない。今はあまり話したい相手ではなかったが、おとなしく彼の後に付いていく。現金なもので、これが一対一ではなく、ジェネシスもついてきてくれていると思うと、いくばくか心に余裕ができるのであった。

 

「座ってくれ」

 副社長室に戻ると、彼は応接に俺たちを促した。

「……紅茶でいいかな」

「あ、そんな、気ィ使ってくんなくていいッス!あ、なんだったら、俺が淹れますから!」

 ポットを奪わんばかりにサービスを申し出たが、ジェネシスの、

「紅茶がいいな。ダージリンの気分だ」

 という図々しい言葉で、否応なく、俺は茶を淹れる役目を副社長に譲るしか無くなった。

 ルーファウス副社長は、手慣れた所作で香りの高い紅茶を、俺とジェネシスの前に並べてくれた。

「どうぞ」

「ど、どうもッス!いや、マジ、これ美味いッスねー!身体があったまるわ、ハハハハ!」

 と必死で取り繕う俺に、

「紅茶の味を褒めるのに、あったまるはどうかと思うけどね、ザックス。ああ、いい香りだ。副社長の淹れる紅茶は俺の好物のひとつなんだよ」

 と、ジェネシスは図々しく宣うのだった。

「と、ところで、なにか話があるんッスか?俺、ちょっとアンジールのデスク行って書類取ってこなくちゃなんスけど」

 早々に立ち去りたくてそんな物言いをした俺を、副社長は目でなだめるように笑った。

 

 

 

 

 

 

 副社長は一口紅茶を飲み、軽く吐息すると形のいい唇を開いた。今までそんなことに気付かなかったから、今の一連の動作がゆっくりと流れるようで見入ってしまったのだと思う。

「……君たちの方こそ、私に聞きたいことがあったんじゃないのかな」

「へ?い、いや、別に何も無いッスよ、な、ジェネシス!?」

 俺はジェネシスの足を蹴飛ばしてそう促した。

「そう?そちらから切り出してくれるとは有り難いね、副社長。例のクラウド少年の一件のことだ」

 ジェネシスは表情も変えずに話し出した。俺はヤツのとなりで青くなるだけだ。

「正直、君が嫌がらせで、彼を傷つけたのではないかと勘ぐっていた」

「……私が?」

「ああ、君のセフィロスへの執心はよく知るところだったし、クラウド少年を邪魔と考えて行動に及んだのではないかとね」

 すらすらとジェネシスが言う。

「い、いや、その、あのッ!本気じゃないッス。まさか副社長がそんな真似をするはず無いですし!」

 俺は慌ててそう告げた。

「……心外だな。私が修習生を使って、その子どもを傷つけたと思っていたのかい?」

 ゆっくりと紅茶を飲みながら、ルーファウス副社長はそうつぶやいた。

「いや、だから、あの、そんなこと思っていないッス!まさか副社長がそんな真似、するはずないし!」

「……恋とは人を狂わせるものだからね。聡明なルーファウス・神羅であっても、憎い恋敵を黙ってみていられなくなったと勘ぐったんだよ」

 俺の発言は完全に無視し、ジェネシスはつらつらとそう言った。

「残念ながら、私の関知せざることだったよ。おそらく同じ修習生のセフィロスファンの子どもたちが嫌がらせをしたのだろう」

「どうやらそのようだったね。疑って済まなかった」

 ジェネシスは頭を下げることもなく、ティーカップを弄びながらささやいた。ルーファウス副社長はすっと目を細め、茶器をテーブルに戻した。