〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<13>
 ザックス
 

  

 

 

 

「謝る必要はないよ、ジェネシス」

「うん……?」

「クラウド・ストライフといったか。私はその少年をめちゃくちゃにしてやりたいほど憎んでいる」

 一言一言を噛みしめるように副社長はつぶやいた。冷たく整った面が、その憎しみの深さを現わすように、醜く歪んだ。

「ふ、副社長……」

 思わず息を飲む俺を、ルーファウス副社長は冷たい目で見つめた。

「信じられないという顔だね、ザックス・フェア」

「い、いや、あの……ふ、副社長がセフィロスを気に入ってたのは知っていましたが……」

 何とか言葉を続ける俺に、副社長は疲れたような笑みを見せた。

 

「……なぜ、あの子どもなのだろう」

「え?」

「そうは思わないか、ザックス・フェア。どうして、トップソルジャーの選んだ相手が、あの何も持たない子どもなのだろうか……?」

 手の平に爪が食い込むほど強く握りしめ、絞り出すようにルーファウス副社長は言った。

「い、いや、それは……」

 俺的にはセフィロスがクラウドを選んだと言うよりも、どうしてクラウドのほうがティファちゃんじゃなく、あのクソうるさい英雄を選んだのだろうかという疑問がある。

 

「恋とはそんなもんさ。甘くて切ないのが恋だ」

 三文詩人のようなセリフを吐くのは、もちろんジェネシスである。

「あ、あの、落ち着いてください。だいたいセフィロスは男ッスよ。副社長のお相手なんてつとまりませんよ。ルーファウス副社長はいずれ綺麗なお嬢さんを妻に迎え、神羅を引き継いでいく立場なんスから……」

 我ながらよい理屈を見つけられたと思う。俺の言葉通り、副社長はこれからそういうルートを辿っていくのが妥当なのだ。

 

 

 

 

 

 

「……昔からずっと……」

 震える唇が言葉を刻んだ。

「昔からずっと……憧れて……好きだったんだ」

 ぽとりと涙が握りしめた手の甲にこぼれ落ちた。

「ふ、副社長……」

「おかしいと思うか、ザックス。私はずっと……子どもの頃からセフィロスのことを想い続けてきたんだ」

 澄み切った湖のようなアイスブルーの瞳から、ぼとぼとと涙の粒がこぼれ続ける。

「う、うわっ、副社長!泣かないで……泣かないでください!お、落ち着いて……」

 あたふたとなだめる俺を横目に、ジェネシスがすっと立ち上がった。

 手際よく茶葉を選び、空になったティーカップに新しい紅茶を注ぐ。

「飲みたまえ、気持ちが落ち着くよ」

 そう言いながら、湯気の立つカップを、副社長の前に置いた。

「ジェネシス……」

「オレンジペコだ。君も好きだったろう?」

 促されるままに、ルーファウス副社長はティーカップに口を付けた。

「……美味しい」

「そうだろう。喉がからからに渇いているはずだ」

 ジェネシスにそう言われて、副社長は頬を赤く染めた。

「みっともないところを見せた……」

 低くつぶやく。

「い、いえ……」

 頭を振った俺の言葉に覆い被せるようにジェネシスが続ける。

「いいや、まったくみっともないなんて思わないよ。恋のために泣ける人は愛おしい」

「ジェネシス……」

「俺にも想い人がいてね。到底叶うはずもない一方通行なんだけど。……その人を想うと自然と涙がにじんでくる」

 ……それは例の棺桶に入っていた黒髪の麗人のことなのだろう。

 その人は、ニブルヘイムの神羅屋敷の奥深くで眠りについていた。名前さえもわからない、だけど一目見たら忘れられないほど美しい男性だったのだ。

 ジェネシスは彼を『女神』と呼んでいる。