〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<8>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 メディカルセンターから人工的な庭園を通って本社にへの道を戻る。

 人工的とは言っても、緑が植えられ、なんとなくホッとする場所であるはずなのだが……

「……なぁ」

「ん〜?」

 思い切ってジェネシスに声を掛けてみた。

「……あのさ。さっきメディカルセンターに居たの、ルーファウスだったよな?」

「ああ、ツォンも一緒だった」

「なんかよけいな心配だって気もするんだけど……でも、ちょっとタイミング良すぎないか?」

 遠回しな俺の物言いに、ジェネシスは苦笑しつつ確認してきた。

「何がだ? 別に副社長がメディカルセンターに来てもおかしくはないだろう? 社の人間なんだし」

「はぐらかすなよ。……考え過ぎかもしれないけど、嫌な予感がするんだ」

「なんだ? お坊ちゃんがチョコボの病室に乱入して、あの子になにかするとでも?」

「う……ッ」

 あまりのストレートな表現に息を飲む。

「それともセフィロスとぶつかって、大騒ぎになるとか」

 ……ぶっちゃけて言えばそのとおりなんだけど、一応『副社長』という立場の人間に、あからさまな推測をするのもどうかと思う……

「いや……ホラ……あの人……ルーファウスってセフィロスやアンタのこと気に入ってるだろう?」

「ああ……俺よりもセフィロスのほうだと思うけどね」

「その辺はどーでもいいんだよ。とにかくセフィロスを気に入りなのは間違いない」

「それはそうだよ。公式の場所では必ず護衛に彼を希望するくらいなんだから」

 当然というように、頷きつつジェネシスは認めた。

「……さっき、客間で一緒にメシ食ってたときさ。あの人、『最近クラウドの名をよく耳にする』とかなんとか言ってたじゃん。俺が聞き返したら上手くごまかしたけど」

「ああ、そういえばそうだね」

「……アンタは惚けてたみたいだから、あんまりよく覚えていないかもしれないけどよ」

 イヤミっぽくやりかえしてみるが、ジェネシスはまったく堪えなかったように微笑んだ。

「ああ、ゴメンよ。昨夜、夢の中に女神が出てきてね。何だか目覚めてからひどく虚しくなってしまって……」

「いや、もうそいつは置いておいて」

 与太話を聞いてやる時間はない。俺は両手で物を退けるような仕草をしてみせた。ジェネシスがため息混じりに苦笑する。

「……なんか気になるよ。いきなり病室入ってクラウドを締め上げるなんてことはないだろうけど、あそこには今、セフィロスが居るだろ?」

「ああ。チョコボの手でも握って、体温計測がわりに額にキスでもしてるんじゃないか? そういやセフィロスはおたふく風邪大丈夫なのかなぁ」

 明後日の方向の心配をするジェネシス。

「いや、そこじゃねーだろ! 俺が気になるのは、セフィロスがクラウドに着いているのを目の当たりにして、ルーファウスがセフィロスとトラブらないかなってこと。セフィロスもああいう人間だ。副社長の権威なんざ屁とも思ってねェ」

「まぁ、その辺はそうかもな。彼のことも『ルーファウス』と呼び捨てだしなァ」

「ほとんど対等な口を聞くだろう? まぁ、神羅の英雄なんだから、周りもいちいち咎めたりはしないが。ツォンのヤツはよく思ってはいないだろう」

「ツォンは、昔から副社長付きみたいなもんだからな。今はタークスのリーダーだってのに、ご苦労なことだ」

「……な、戻ってみないか、ジェネシス」

「どうして? 仮にセフィロスとルーファウス副社長がもめようと、別におまえには関係ないだろう?」

「そ、それはそうだけど……でも、今回の一件はクラウドも関係しているから。あいつにとっちゃ、自分が原因でもめごとになるなんて想像もつかないだろうけど……できれば回避させたい」

「やれやれ、どっちが保護者なんだか。おまえもあまりセフィロスのことは言えないな」

「なんだよ、それ! 俺のは完全に友情っつーか、同室の後輩だからだよ。ティファちゃんにもよろしく頼まれたしな!」

「ははは。いいさ、おまえが気になるっていうんなら付き合うよ」

「……悪いな。なんかあったとき、アンタなら上手く場を収めてくれそうだし。俺もちぃと頭に血が上ると……」

「ああ、かまわない。それよりもザックスに頼りにされるのが気持ちいいな。今度アンジールに自慢しよう」

 おかしな喜び方をすると、ジェネシスはさっさと踵を返し、「行くよ」と俺を促した。

 

 

 

 

 

 

「不愉快だ!」

 エントランスを抜け、病室のフロアにエレベーターで昇ってゆく。

 エレベーターホールの休憩スペース。

 その声が耳に飛び込んできたとき、俺は自分の直感が正しかったことを確信した。

「そうかそうか。ならば辞表を書けば、逐一行動を規制されることも無くなるな。了解した」

「セフィロス……!」

 という諫めるような物言いはツォンだ。病室の扉越しなのでややくぐもって聞こえるが。いささか躊躇するが、ジェネシスの頷きに同じように返し、ノックの返事がある前に扉を開けた。

 ルーファウスが固い眼差しで俺たちを射るように見る。ツォンのほうは、ほとほと疲れたという表情だ。ただし、目だけ。

 タークスは感情を「顔」には表さないのだ。ただセフィロスだけは、相変わらずふてぶてしい英雄のままだった。

「ジェネシス……ザックス……」

 副社長が独り言のように、俺たちの名をつぶやいた。表情は固いが、セフィロスとの言い争いで意気消沈しているわけではなさそうだ。

「あ、すんません、いきなり。ええ〜と、その……ちょっと……声が聞こえたもんスから」

 俺は、にらみ合う両者に声を掛けた。あ、いや、正確には睨んでいるのはセフィロスだけだが。

 ……なんとなくこの流れから、おおよその推測はつく。第三者が口だしすべきではないのかもしれないけど、クラウドも絡んだ話だ。

「あ、ああ、いや、セフィロスに用事があってね」

 と副社長。

「そーなんスか? ただ、その……ここ病室ですし……クラウドも薬で眠っているとはいえ、あんまし大きな音が聞こえると目を覚ましかねないんで」

 ルームメイトの容態を心配しているという態度で、さりげなくルーファウスを牽制する。だが、表面上は穏やかなふりをしてみせていたが、やはり内心では面白くなかったのだろう。めずらしくもルーファウスはカッとなったふうに、矢継ぎ早に言葉を繋いだ。