〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<9>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

 丁寧に車のじいさんに礼を告げ、気の回るジェネシスは彼に何やら手渡していた。

 後で確認すると、このあたりではなかなか手に入らない、舶来もののタバコだと言う。

 自分は吸わないくせに、こんなときのために、ひとつふたつ鞄に放り込んできたらしい。

 ……なんか、コイツに比べると、やっぱり俺って、まだまだなのかなと感じてしまう。

 もっとも、セフィロスなどは、俺以上に気配りができない野蛮人ではあるが。

「さてと、ザックス。宿取らなきゃ」

「お、おう!」

「とは言っても選択肢はほとんどなさそうだけどね。……あそこかなァ」

 ジェネシスが指さした先には、民家に毛が生えた程度の宿屋があった。いかにもRPGに出てきそうな、鄙びた木造家屋だ。

 こんな時間にもかかわらず、宿の亭主は機嫌良く迎えてくれ、俺たちは二階の奥の部屋に通された。

 夜目にも外観は古くさい民宿であったが、中は思いの外広く、俺たちが案内されたツインのベッドルームも重厚な造りに好感が持てた。



 



 
 

「……ザックス」

 手洗いに行っていたジェネシスが戻ってくる。

 俺は荷物を置いて、ベッドに腰を落ち着けていたところだった。

「ザックス、セフィロス、来てる」

「えッ!?」

 その言葉に大声を上げてしまう。はずみでガタンとベッドを蹴り飛ばしてしまった。

 俺たちの目的はティファちゃんを守ること……つまりセフィロスの愚行を止めることなのだから。まずは頭に血の上った英雄を見つけなければどうにもならない。

「シッ……他に客が居るとは思えないけど、もう遅い時間だからね」

「セフィロスって、どこに居る!? 早く止めねーと!」

「そういうことじゃなくて…… この廊下の突き当たり。……ほら、あの奥。あそこの部屋らしいね。とは言っても、チェックインは夕刻をとうに過ぎていたみたいだけど」

 いったいどこで、そんな情報を!?

 と俺の顔に書いてあったのだろう、彼はごく自然に言葉を付け足した。

「……下の宿帳。入るとき、広げて置いてあったの見たから。さっき手洗いのついでにもう一度覗いてみたんだ。今日の日付のところにサインがあった」

「……気付かなかった」

「ああ、俺は彼のサインを見慣れているからね。すごく乱暴なんだよ。力任せに書き殴ったってカンジ」

 そういうと、ジェネシスは文字を思い出したのか、プッと小さく吹き出した。

「じゃあ、セフィロスは……」

「外出しているんじゃないか? 奥の部屋に人の気配はないし」

 ジェネシスはそういうと、自分の荷物をクロゼットにしまい込んだ。

「おいおいおい! 外出中って……まさか、ティファちゃんに……」

「時間を考えろよ、ザックス。普通の親なら、知らない男がいきなり娘を訪ねてきて、すぐに取り次ぐと思うか? もしセフィロスが彼女に会いたくても、偶然さえなければ明日の昼以降だろ」

「じゃあ、どこに行ってるんだよ!! 奥の部屋には居ないんだろ」

 いらいらと怒鳴る俺を、ジェネシスは子供をあしらうように静めようとした。

「さァ……どこかへ食事か…… 神羅屋敷かもな」

「神羅屋敷……」

「ああ、ニブルヘイムの魔晄炉は今も使われている。あの屋敷も定期的にうちの社員が手入れをしているはずだ。……ああ、よくよく考えれば、あそこに泊まってもよかったかもな」

 ジェネシスは独り言のようにそう答えると、そのまま「ああ、でも食事が……」とか「ベッドが冷えているのは嫌だな」などと、どうでもいいことをつぶやいていた。

  

「おい、ジェネシス、行こうぜ!」

「……どこへ?」

「決まってんだろッ!? 神羅屋敷だよ! 確かにセフィロスがそこに居る可能性は高い!!」

「今から……? 俺、疲れてるんだけど……」

 ひどく面倒くさそうにつぶやくジェネシス。見れば、しっかりと手にバスローブとタオルなどを用意している。

「まずはセフィロスの確保が先だろッ!! 説得さえしちまえば、後はゆっくり……」

「ハイハイ。ザックスはせっかちだなァ」

 ブツブツと文句を垂れるジェネシスを無視し、俺たちはすぐ近くにそびえ立つ、神羅屋敷に足を運んだのであった。