〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<15>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「そう、よかったわ。クラウドはとてもあなたに憧れていたから。『いい先輩』が側にいるなら安心ね」

 余裕の微笑を浮かべ、ティファちゃんが言葉を続けた。

「ああ、悪い虫がつかぬよう、重々注意している。特にふしだらな女はいかん。あの子はまだ子供だからな」

「それは私としてもありがたいわ。都会には誘惑が多いでしょうから」

「もっとも、クラウドは女の誘惑に乗るほど軽々しい子ではないがな」

「それじゃあ、男の誘惑に乗るってこともなさそうね」

「あの子にふさわしい人物が居れば別の話だろう」

「ああ、それは無理だと思うわ。クラウドは女の子にモテるもの。村にいるときも、大人しくて無愛想なくせに、案外下級生に慕われていたの」

「それは下品な女がクラウドに群がるだけであって、あの子自身の嗜好がどうであるかはまったく別問題だ」

 

 ヒョオォォォォォ…… ガガガガッ! ッピッシャーン!!

 という擬音表現は、冷たい風が吹き、雷鳴が轟く様である。

 

 ヤバイ、ヤバイって!! コレ!!

 ど、どうしよう…… 風林火山じゃないけど、まさしく『両雄』と言わんばかりの、雄々しき両者に挟まれて、俺など口一つ挟めない雰囲気だ。

 ふたりとも物言いは穏やかだが、発している『気』がものすごい。オーラが立ち上る勢いだ。

「セフィロスさんはさぞかしおモテになるんでしょうね。英雄だものね!」

「『セフィロス』でけっこう。……別にそれほどでもない」

「きっと、両手で数えきれないほど恋人志願者がいるのよね」

「ああ、そう、もう馴染みの店っつーのがあって、毎晩……」

 と、わかる話題だったので、割って入った俺は後頭部をセフィロスにボコられた。異議を唱えようと振り向いたが、人を殺せそうなヤツの視線に出会って、そのまま回れ右をした。

「いいじゃない、ザックス。英雄ですもの。ストレスだってたまるわ。まぁ、私やクラウドとは別世界の話だけどね」

「〜〜〜〜〜ッッッッ!!!」

 

 う゛あぁぁぁぁ〜ッ!!

 ジェネシスゥゥゥゥ〜帰ってきてくれよォォォ〜

 もう、俺、耐えらんないーッ!!

 

 

 

 

 

 

 その願いが通じたのだろうか。

 暗雲立ちこめる修羅場に、場違いなのんびり声が割り込んできた。

「疲れたァ、あの階段長すぎるよね〜……あれェ?ティファちゃんじゃない?」

「ジェ、ジェ、ジェネシス!!」

 風を起こす勢いで振り向いた俺は、もしかしたら涙目になっていたかもしれない。とりあえず、この緊迫した空気を緩めてくれただけでも泣けるほど有り難かった。

「ジェネシスだ。よろしく」

 ごく自然に手を差し出す。ヤベ、そういや握手もしてなかったぜ……

「え、あ、は、はい。ティファ……です」

「ああ、もっと気楽に。ああ、本当だ、チョコボくんが言ったように可愛い人だね。なぁ、ザックス?」

「お、おう」

「ク、クラウドがそんなふうに言ったの? もう……」

 などとつぶやいて頬を赤らめるティファちゃんは、あくまでもセフィロスに対して、『勝者』の態度を崩さない。

 そりゃ間違ってもセフィロスはクラウドに誉められて、頬を赤らめるシチュエーションなど作りようがないだろう。『男』であり『英雄』なのだから。

 

「ところで……三人?とも、どうしてニブルヘイムへ?」

「え?」

「……だって、こんな田舎にソルジャーが来るなんて…… ねぇ、クラウドの身に何か……?」

 神妙な様子でティファちゃんが訊いてきた。本当はまずそれを確かめたかったのだろう。

「え、あ、別にそんなんじゃ……」

「このオレがあの子の側にいるんだ。問題が起こるはずがない」

 と、きっぱりと言い切るセフィロス。

 って、目下アンタが一番の問題なんだけどね、コレ!!

「だって、セフィロスはトップソルジャーでしょう」

「だから何だ?」

「クラウドはこの前入社したばかりの修習生なのよ? 側に居るっていったって、『私のように』ずっと一緒にいて面倒見てあげてるってわけじゃないでしょ」

「〜〜〜〜ッ!!」

 やれやれといった調子で反論するティファちゃん。セフィロスは30センチは目線が下の女の子を憎悪の眼差しで睨み付ける。

「私は子どもの頃からクラウドと一緒だったから。彼はすごく寂しがり屋なの。側に行ってあげたいな」

 ギリギリというのはセフィロスの歯噛みの音だろう…… 怖エェェェって……

「オレは同じ社内で生活してるんだ」

 体勢を立て直して、セフィロスが反論した。

「いつでも寮の部屋に遊びに行けるし、ともに食卓を囲むこともある。休暇の日に一緒にすごそうと思えばいつだって……」

「それは上官から誘われたら嫌とは言えないわよね、クラウドも」

 キャ〜〜〜〜〜ッ!!

 煽らないで、ティファちゃん〜〜ッ!!