『被虐の孔奴隷2 ~ふたりに愛されて~』
 
<1>
 
 KHセフィロス
 

 

 

「やぁ、ごきげんよう、『セフィロス』。今夜もやっぱり来たんだね」

 そう言って笑ったのは、すでにこの世界で見慣れた顔……ジェネシスであった。同じテーブルにレオンが居て、茶を飲んでいる。

 ここは部屋の中ではなかった。城の中庭のような場所なのだろうか。

 芝生の上に、大理石のテーブルが置かれ、ガーデンライトが白々とそこを照らしている。

 夜の風はどこか生暖かく、私の身を粘つくように捕らえ、吹き抜けてゆく。

「ジェネシス……レ、レオン」

 私はふたりの名を呼んだ。口の中が干上がるような緊張が私を包んだ。

「ジェ、ジェネシス……どうして、レオンが居るのだ。この前もそうだった」

「だって、小説のタイトルが『ふたりに愛されて』なんだよ?俺ひとりじゃおかしいだろう?」

 ヒョイと両手をあげて、さも当然と言ったようにジェネシスが笑って見せた。

「だ、だからといって、どうしてレオンを……」

「うん、そうだね、このレオンは、君の知るレオンでもあり、そうでもないと言える。俺の小説の中に出てくる人物をレオンが演じてくれているというのが、一番ぴったりくるかな」

 今日もジェネシスの手には、深紅のカバーをした小さな文庫本が乗っていた。

「レオン……レオンなのだろう? どうして、私の夢に……」

 ジェネシスの返答を半ば無視するような態度で、私は、椅子に掛けたまま何の反応もしないレオンに声を掛けた。

「強いて言えばアンタが望んだのだろう。この俺を」

 いつもとはまるで異なる、冷たい口調でレオンが言った。

 

「さぁ、夜は短い。たっぷりと楽しまないとね。今日もそのつもりでここに来たのだろう、『セフィロス』」

 ジェネシスが音もなく椅子から立ち上がった。

 そうだ……『扉』を開けないと誓ったはずなのに、今夜も私は、目の前のドアに手を掛けてしまった。その先がどこに続いているのかというのを、頭の中ではわかっていたはずなのに、手が勝手に『扉』を開いていた。

 この肉の欲求を満たすために……

 辱められ、嬲られることを期待して、私は扉に手を掛けたのだ。

 

 そう自覚するだけで、ぞくぞくと背筋が震えた。

 

 

 

 

 

 

「ジェ、ジェネシス……か、帰る。私はもとの世界に帰る」

 その言葉に、レオンが感情の見えない顔を上げた。

「残念だけどね、『セフィロス』。帰りのドアがどこにあるのか、見つけられるのかい?この中庭にあるの?それとも屋敷の中?」

「そ、それは……」

 私は中庭から続く邸宅を見つめた。どこかアンセムの城に似た雰囲気の建物は、部屋数だけでいったいどれほどあるのだろう。

 噴水のあるパティオは、単に『中庭』などという規模のものではない。

「『扉』は君自身が望まないと現われはしないのだよ。いつだってそうだっただろう?君が十分に満足して、元の世界へ戻ろうという気持ちになってからじゃなければ、目に見えなかっただろう」

「……ッ」

「そんな顔をしないで。せっかく来たんだ。今日は外で楽しもうじゃないか。……ねぇ、レオン」

「…………」

 レオンは無言のままだ。

 

「それじゃあ、楽しい一夜を始めようか。『セフィロス』、服を脱いで。この陽気なら寒くはないだろう?」

 ごく当然のように、ジェネシスが私に命じた。

 わずかに躊躇いながらも、私はエスタ風の長い貫筒衣を、自ら足元に落とした。

「これまで、いろいろな方法で君を楽しませてあげてきたよね。今日は外で交わろうと思うんだ。気分が変って乙なものだと思うよ」

「レオン、これで『セフィロス』を縛ってあげて。手は後ろに回して、足はふたつに折った形がいいかな」

 そういうと、ジェネシスは紅い紐をレオンに渡した。

「し、縛る……?止せ、そんなのは……」

 身体の自由を奪われるということに、根源的な恐怖を感じて私はジェネシスに抗った。しかし、レオンはジェネシスの望むまま、紅いロープを持って、私に近づいてきた。

「レ、レオン……やめ……」

「……アンタが望んだことなんだろう。おとなしくしていてくれ」

 抑揚のない物言いで、私の制止を振り切ると、紐を身体に巻き付けてゆく。肌に紐が食い込んでゆくのがわかる。痛みはないが、あっという間に後ろ手に縛られた私は、自由に身動きすらとれなくなった。

「ああ、白い肌に紅のロープが映えて、とても綺麗だよ、『セフィロス』……」

 ジェネシスが膝を折り、私の顔を持ち上げると、ねっとりと深いキスをした。舌が私の歯列を割って中に忍び込んでくる。軟口蓋をたっぷりと舐り、舌を絡めて吸い上げる。

 濃厚な口づけに、私の身体は徐々に反応し始めていた。