~この手をとって抱きしめて~
 
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 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 無事、ホロウバスティオンに戻ってきてから一週間……

 俺はほぼ、毎日のようにアンセムの城に通っていた。

 

「レオンってば、またお城行くの?ちょっと熱心すぎない?」

 クラウドが、口を尖らせて文句を言う。

「いろいろ用事があってな。おまえも今日はマーリンの家へちゃんと行けよ。書類の解析を手伝ってくれないとティファが嘆いていたぞ」

 俺は食洗機から、乾いた食器を次々と戸棚にしまいながらそう言った。

「だって、俺が手伝ったってなかなか進まないもん。あんまり意味がないじゃん」

「そういう態度がよくないんだ。おまえはもともと頭はいいんだから、ゆっくり腰を落ち着けて……」

「はいはい、わかってるよ。ちゃんと行くって」

 クラウドはため息混じりにそう応えたが、とても反省しているようには見えない。

 ブルゾンを引っかけ、バイクのキーを取り出したところで、クラウドに声を掛けられた。

「あ、レオン、携帯忘れてるぞ。ほら、テーブルに……」

 取ってよこしてくれたクラウドの手から、俺はひったくるようにして携帯電話を受け取った。

「なんだよ、びっくりするなぁ」

 クラウドが苦情をいうのも不思議ではない。それほどの勢いだったのだから。

「あ……いや、悪い。とにかくおまえもしっかりやってこいよ。先に出るからな」

 そう言い残して、俺は家を出た。

 バイクを発進させて、一気にアンセムの城まで走らせる。

 

 ……今日、初めてのメールが『セフィロス』から来たのだ。

 

 『しろにいる。こなくていい』

 という単文だったが、何はともあれ、初めての彼からのメールだ。

 

 『セフィロス』の携帯電話は、俺の親父、ラグナが贈ったものだったが、これまで、一度としてまともに使われたことはなかった。

 何度メールしても、なしのつぶてであったが、ようやく……ようやく、彼が返信をくれたのだ。

 その感動は、ほとんど毎日、彼にメールを送っていた人間でなくてはわからないだろう。

 つまり、今の俺はある種の感動に突き動かされて、『セフィロス』のいるアンセムの城に向かっていたのであった。

 ちなみに念を押しておきたいのは、やるべき仕事はきちんと終わらせてからの行動なので、その点を間違えないで欲しい。

 『セフィロス』と想いが通じ合ったことで、それ以外のことをおろそかにするのは許されない。そんな行動こそ、まさにこの大切な感情を冒涜する行為だと思っている。

 

 

 

 

 

 

 城に着くと、俺は鬱陶しいモンスターどもをなぎ払って、急いで最上階のアンセムの私室に向かった。

 寝室の前で、ひとつ咳払いをすると、俺は扉をノックしたのである。

 

「開いている……」

 最近聞き慣れた、気怠げな声がそう応える。

「セフィロス、俺だ。入らせてもらう」

 きちんとそう告げてから、俺は扉を開いた。

 その人は、エスタでもらったらしい白い貫筒衣を着て、大きな寝台に腰掛けていた。

 彼は俺の姿を見て、読んでいた何かの本をチェストにしまった。

「今日は気分はどうだ、セフィロス」

「……もうなんの心配もいらないと言っている。目の具合も問題ない」

 鬱陶しそうに髪を掻上げながら、セフィロスはそうつぶやいた。

「それならばよかった。やはり確認しないと気になってしまって」

「……メールにはこなくていいと書いたはずだが」

 ため息混じりに彼が言った。

「いや、俺がここに来るのは日課のようなものだ。ましてや初めてアンタからメールをもらえたんだ。顔くらい見に来るのが当然じゃないか」

「……思いついたことを書いてみただけだ」

 セフィロスはぽそりとそうつぶやいた。少し照れたように顔を背ける。

 

「ああ、それでいいんだ。おかげで今日はここにアンタが居ると確信して出てこられた。……安心した」

「…………」

 セフィロスはわずかな間、首を傾げて考え事をしている様子だった。

 だが、すぐに俺に向き直ると、

「……今日もするのか。服を脱げばいいか」

 と、あっさり訊ねてきた。

「な、何を言っているんだ!そ、そんなつもりで来たんじゃない!」

 俺は慌てて否定した。そのつもりがまったくなかったかと問われれば、微妙な気持ちになるが、少なくとも一義的な理由は、『セフィロスの顔を見に来た』ということになる。

 なんとかわかりやすく彼にそれを伝えると、

「なんだ……そうか」

 と素直に頷いてくれたのだった。

「顔を見て満足ならば、好きなだけ見ていけばいい。……もの好きな輩だな」

 セフィロスはそういうと、少しだけ笑ってくれた。

 そうだ、こういう時間が大切なんだ。

 何もしなくても、なにげないやりとりをして、笑みを浮べた顔を見る……こうした時間を重ねていくことが、俺たちに一番必要なことだと思う。