~この手をとって抱きしめて~
 
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 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 事が終わると、ふたりで寝台に転がっていた。

 俺の方はまだ余裕があるが、セフィロスは疲労困憊だろう。

「セフィロス、すまん。……着け忘れた」

 ずっと謝ろうと思っていたことを口にした。どうも彼と交わるときはなし崩し的になることが多くて、避妊具を着けるタイミングが難しい。

「……どうせ後で湯に入る。気にするな」

 気怠げにセフィロスが言う。

 風呂場で中に出された物を掻き出すつもりなのだろう。俺は一度もセフィロスと一緒に風呂に入っていない。

 今日こそは、その手伝いをさせてもらおうと考えていた。

「セフィロス、身体を洗ってやる。浴室に行こう」

 俺はそういうと、寝台から降りて、セフィロスの身体を抱き上げようとした。

「いい……ひとりでやる」

 しかし、セフィロスはそうつぶやいて、自身で歩こうと床に足を着けた。

「背を流すのはひとりではやりずらいだろう。それに体内を洗うなら……」

「いいと言っているのだ。……恥ずかしいだろう」

 かすかに頬を染めて、セフィロスが言い放った。

「は、恥ずかしいか?だが、こうして行為に及んでいるのだから、今さら……」

「……今さらでも何でも、恥ずかしい物は恥ずかしいのだ」

 そういうと、彼はさっさと自分で歩いて、浴室に入っていってしまった。俺自身は別に湯に浸かる必要はないので、そのまま身繕いをする。

 彼が浴室から出てくるまでは手持ち無沙汰だ。

 乱れたベッドを直そうと、布団を剥ぎ取りシーツを替える。セフィロスはあまり気にしないのかも知れないが、性交渉をした後のシーツを替えないでいるのは何となく落ち着かない気分になるのだ。

 洗濯機は浴室の続きの間になっているので、とりあえず洗い物だけまとめておいた。セフィロスの脱いだ衣も、ついでに洗ってやろうと思い、クローゼットから新しい服を出して置いてやる。

 ……これも、似たような貫筒衣だ。

 この手の服を着ると、セフィロスは本物の天使のように見えてしまう。翼が白ければまさしくさもありなんといった風情だ。

 しかし、似たような服が多いと言うことは、ラグナのヤツがエスタの装束をずいぶんとたくさんセフィロスに持たせたのだろう。聖職者が着るようなそれは、セフィロスの美貌をより一層際だたせるので、俺個人としては好ましいのだが、この姿であまり人前には出て欲しくなかった。

 セフィロスもただこの城に居るわけではない。時には街に気分転換で出掛けるという。ラグナのようなバカがそうそういるとは思えないが、どうしてもセフィロスは人目を引く。

 不逞の輩がちょっかいを出したりしないかと心配になるのだ。もちろん、そんな連中にセフィロスが不覚をとるとは思えないが、下卑た輩に目を付けられるというだけでも俺は嫌でたまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 ……今日はこれからどうしよう。

 まだ早い時間だ。セフィロスを連れて散歩に出ようか。それとも、ここでふたりで何か話をしてすごそうか……

 俺はそんなことを考えながらも、手だけはさっさと動かして洗濯物をまとめていた。

 そのときである。布団の端がチェストにぶつかって、中の物がこぼれ落ちてしまった。水鳥の羽根をたっぷりと使ってある、アンセムの寝室のアイテムは、クッション一つを取ってもかなりボリューム感のある物が多い。

 慌てて、こぼれ落ちたものを拾おうと手を伸ばすと、そこに落ちていたのは、何冊かの文庫本であった。深紅のブックカバーがなにやら曰くありげだ。

 何の衒いもなく、それらを拾い上げたわけだが……

 数冊の書籍のタイトルを見て、俺は我が目を疑ってしまいそうになった。それらはいわゆる……アダルト小説であった。

 

 『被虐の王子~尻奴隷の悦楽~』

 ……ものすごいタイトルだ。それ以外にも、『堕ちた天使~軍服と鞭』だの、……こ、これ以上は到底口にするのも恥ずかしいものばかりが7,8冊も扇状にこぼれ落ちていた。

 

「……セフィロスはこういったものを好んで読むのか?」

 そういえば、ジェネシスに本を贈ってもらったといっていた。それがこれらなのだろうか。わざわざ、いわゆる……その……春本とでもいうべきものを?

 いかん、さすがにプライベートだ。勝手に本を漁って、これらをどうした?などと訊ねるのはあまりに不躾だろう。

 セフィロスだって、成人男子だ。こういうものに関心があったとしても当然だろう。むしろ、こうした本を好むというのはひとつのデータとして、知っておくべきだ。なんせ、俺はセフィロスの『恋人』なのだから。

 俺は散らかしてしまった本を、チェストの奥にしまい込み、その中から適当に一冊を……一冊だけを抜き取って、上着の内ポケットにしまった。これは決して窃盗などというつもりはない。恋人として、彼の嗜好を知っておこうという純粋な理由からの行動だった。

 

 ……セフィロスが戻ってくるまで、これを読んで待っていようか。

 別にわざわざ隠して持ち帰らなくても、普通に貸してくれるかも知れない。

 しかし、もしセフィロスが、本気で隠していたかったものだとしたら、読んで待っているという案はまずいだろう。