~この手をとって抱きしめて~
 
<7>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

「レオン、レオン!」

 浴室から声を掛けられて、俺はまさに文字通り飛び上がった。

「レオン!」

「ど、どうした、セフィロス」

「髪を拭ってくれ、タオルを忘れた」

 とバスローブのまま、俺に声を掛けた。こちら側に来ないのは、雫が垂れているから部屋を濡らしてしまうという配慮と思われた。

「す、すぐ行く」

 結局俺は、そのうちの一冊を上着の内ポケットに入れたまま、セフィロスの居るシャワールームに顔を出した。

 ……もはや、気づかれずに元に戻すという方法はなくなりそうだ。

「髪は俺がやるから、楽にしていてくれ」

 鏡台の前に座らせ、櫛やブラシを用意する。もちろん丁寧にドライヤーをかけることも忘れない。

「……風呂に入ると眠くなるのがよくないな」

 ぼんやりと彼はつぶやいた。

「だったら、少し眠ったほうがいい。俺が側についている」

「…………」

「どうした、セフィロス」

「別に……側になど、ついていなくていい。おまえにはいろいろとやることがあるのだろう」

「セフィロス……」

 俺は少々驚いた。こんな風に俺の立場に言及して、何かを遠慮する彼を初めて見たからだ。

 俺を思ってそう言ってくれるのだと思うと、嬉しいという感情と同時に、いじらしさも感じてしまって、彼一人を放り出して帰るつもりにはならなかった。

「大丈夫だ。俺は常に為すべき事を終えてから、アンタに会いに来ている。今の俺にとっては、アンタと一緒に居る時間がとても大切なんだ」

「……そうなのか?」

 鏡の中の俺を見つめながら、彼は聞き返した。

「そうなんだ。だからアンタさえ鬱陶しく思わないなら、こうして一緒にいられる時間を最大限に取りたいんだ」

「…………」

 髪を梳いている途中、彼の耳が紅く染まっているのを見て、彼が何も言わないのは照れているのだと理解した。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス……俺にして欲しいことはないか?アンタが自分から言ってくれないと、愚鈍な俺は何ひとつ思いつかない」

 エスタ風の衣装の、背中のボタンを嵌めてやりながら、俺はそう訊ねた。

「特にこれといって、おまえに頼まなければならないことなどない。……こうして、わざわざ顔を見に来てくれたり……私が何も言わずとも、レオンは自分から動いているではないか」

「それはそうだが……その、もっと閨事でああしてほしいとかこうしてほしいとか……」

 さっきの文庫本を思い出しながら、問いかけてみる。気恥ずかしいが、ずっと気になっていたことだった。

「おや、レオンは今の交合に満足してはいないのか。私はおまえに触れられるだけで十分だと思っている」

「だ、だが……俺は下手なんだ!」

 力を込めてそう宣った。そもそも経験自体が少ないし、同じ男相手と言うだけでもそのハードルはさらに高くなってしまうのだ。

「プッ……ハハハハ、何を力いっぱい叫んでいるのだ……ハハハハ、レオンは面白い」

 セフィロスは文字通り腹を抱えて、寝台に寝転がって笑っている。

「その……本当にアンタが満足してくれているのかわからないし……」

「では、私が演技でもしていると……?」

 クスクス笑いが止められずにセフィロスは聞き返した。

「い、いや……そうはいわないが」

「大丈夫だ、レオン」

 セフィロスの手が俺の頬に触れた。そのまま、軽く口づけられる。

「ちゃんと、満足している……」

 耳元でそうささやかれ、ぞくぞくと背筋が震えてしまう。

 冷たい湖の湖面を思わせるような、アイスブルーの瞳、長い睫毛、鼻筋など怖いくらいに通っていて、うっすらと赤みのある薄い唇が蠱惑的に見える。

 こんなふうに間近でささやかれたら、どんな人間でも虜にされてしまいそうだ。

 そんなセフィロスが、俺がいいと言ってくれているのだ。迷いのある態度はかえって彼に気を使わせてしまうのかもしれない。

 

「……アンタがそう言ってくれて嬉しい。さぁ、眠ってくれ。アンタが寝るまで、ずっとここに付いているから」

「ん……」

 差しのばされた手を握り直し、俺は彼の髪をそっと撫でてやった。