~この手をとって抱きしめて~
 
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 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 城からの帰りがけに、ストアに寄って色々と買い出し作業を行なう。俺たちの家で使う物もあるし、セフィロスのために持っていってやりたい物もある。

 普段ならクラウドとふたりで来ることが多いが、最近はひとりで済ませるようになってきた。

 クラウドが一緒だと、あれやこれやと目移りするので、なかなか買い物が捗らないのだ。

 

 家に戻ると、クラウドのバイクは無くなっていた。よかった、まだ外出しているのだ。

 

 さっそく、買ってきた材料で、夕食の支度を始める。今夜は簡単に済ませたい。

 チキンの照り焼きと、シチューというメニューを選んだ。どちらもクラウドの好物だから、残すこともないだろう。

 あっという間に仕込みは終わり、チキンを焼けばすぐに晩飯になるように準備を終える。

 

「……クラウドが帰ってくるまで時間があるな」

 時計を見れば、夕方の5時を回ったところだ。

 俺はセフィロスのところから本を失敬してきたのを思い出した。せっかくなのだから、参考までに読んでみようと考えたのだ。

「『被虐の孔奴隷~ふたりに愛されて~』……こちらもものすごいタイトルだ。ジェネシスとは一体何者なのだろう」

 タイトルを口に出すと、それだけでカッと身体が熱くなるほど生々しい。

 深紅の表紙を眺め、ページを手繰った……

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~、レオン、今日は早かったんだな」

 いきなり声を掛けられて、俺は大あわてで本をクッションの下に埋め込んだ。

 クラウドのバイクの音が聞こえたはずなのに、それにさえも気付かぬほど俺は必死に本を読み進めてしまっていた。

「あ、ああ、お帰り、クラウド」

 なんとか平静を装い、彼にあいさつを返す。

「マーリンの家、ちゃんと行ってきたよ~。もう書類いっぱいでうんざり……」

「そ、そうか」

「なんか、俺の分とか言われて、どさっと渡されちゃった」

「あ、ああ、皆で手分けして進めているからな。それより、クラウド、先にシャワーを浴びてこい。すぐに夕食にする」

 俺はエプロンを片手にキッチンへ向かった。

「うん、シチューのいい匂い。他には?」

「手羽中の照り焼きとサラダだ」

「わかった。あー、お腹空いた。シャワーシャワーっと」

 クラウドは言われたとおり、素直に部屋に引っ込んでいった。

 

 ……危ないところだった。こんなものを見られては何を言われるかわかったものではない。とりあえずバックに本を移し、自分の部屋へ置いておく。続きを読むのは今夜になるだろう。

 しかし……官能小説というのだろうか。

 それはなかなか興味深い内容であった。まだ途中だが、タイトルにあるように、三人で行為に及ぶ内容であって、普段ならばまずあり得ないシチュエーションなのだ。それをもっともらしく書いてあるのはなかなか技巧的だが……それより何より、行為そのものがものすごいのだ。

 さまざまな道具を使ってみたり、言葉での責めは、その気のない俺でも思わず、ぞくぞくと身震いしたくなる。

 『お仕置き』と称されて、さまざまな淫行に及ばれる主人公はその美貌も相まって、なぜかセフィロスを彷彿とさせるのだ。

 いや、今の俺には『怜悧』だの『美しい』という表現は、すべてセフィロスへ直結の単語になってしまっているのだと思われる。

 その美しい『(仮)セフィロス』が、あんなことやこんなことをされて……と思って読み進めていると、なんだかムラムラと催してくるものがある。

 クラウドが帰ってきてくれて助かった。そうでなければ、俺はそんな本を読みながら、ひとりで慰めかねない状況だったからである。