~この手をとって抱きしめて~
 
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 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

「それでさァ、ユフィのヤツが……って、レオン、聞いてる!?」

 クラウドに声を荒げられて、俺はハッと意識を戻した。

「あ、ああ、聞いている、聞いている」

「どうしたの、レオン、ボケッとして……最近調子悪そうだけど」

「そんなことはないぞ。仕事は普通にこなせているし、ただここのところ急に寒くなったからな」

 ホロウバスティオンは基本的に気温が低い。それもそろそろ秋の半ばを過ぎようというこの時期は、夜になると一気に温度が下がることも多いのだ。

「風邪の引き始めじゃないだろうな。アンタの方こそ、早く風呂入って寝ろよ。食器は食洗機に放り込んでおけばいいんだろ」

「い、いや、俺がやるから大丈夫だ。クラウドのほうこそ、もうシャワーを終えたのだから、ベッドを暖かくして休んだ方がいい」

 クラウドの場合、風呂上がりになんやかやと遊んでいる間に風邪を引くパターンが多いのだ。

「具合が悪いときに、俺の心配なんてするなよな。いくらなんでも、食器洗い機にお皿並べるくらいのことは俺だって出来るからさ。それより風呂入れよ、追い炊きするの忘れんなよな」

 腕まくりしたクラウドは、めずらしくもテキパキと作業を始めた。

「わかった。では風呂をもらってくる。ありがとうな、クラウド」

「いちいちお礼言うようなことじゃないだろ」

 呆れた様子でクラウドに言い返され、俺はずいぶんと彼に気を使わせてしまったのだと悔いた。

 

 ……まさか、あの本のせいで欲情しているなどと口に出来ようはずが無い。

 ジェネシスが『セフィロス』に渡した本の中では、ずいぶんと濃厚で淫靡な世界が繰り広げられている。主人公の描写の所々が、『セフィロス』と重なるようで、このままでは平気な顔をして彼には会えないくらいだ。

 おっと……続きを読む前に、まずはクラウドに言われたとおり風呂に入ってこよう。そのほうがベッドで集中して読書できるだろう。

 心配してくれるクラウドには、申し訳ないと思ったが、一人になれる時間が少しでも増えたのは、今の俺にとってはありがたいことだった。

 

 

 

 

 

 

『あぁッ……いい、もうイク……また出ちゃう……!』

『もっと、後ろを擦って、お願い咥えさせてェ』

 

 ……表紙のイラスト以上に、内容はものすごいものであった。

 これがいわゆる女性向けとよばれるアダルト小説なのだろうか。

 ジェネシスがどういう意図でこの本を、『セフィロス』へのお土産に選んだのか……それがわからなければどうしようもないのだが、何冊かの本を捨てもせず、わざわざアンセムの寝室にしまい込んでいるところを見ると、愛読しているのは間違いないと思われる。

 

 しかし……『セフィロス』が性向がこのような本にあるというのならば、実際のまぐわいのときにも、この本に書かれているような被虐的な行為を望むのだろうか?

 俺自身はまるで考えたこともなかったが、現実的にこういった物を好むというのならば、俺とのやりとりでは満足できていないのではなかろうか。

 

「……勇気を出して訊いてみるか?」

 いや……それを訊ねたのならば、俺が本を一冊勝手に盗み読みしたことまで、白状しなければならなくなる。それに訊ねるといっても、どうやって訊けばよいのかさえわからない。

『この本の主人公みたいなプレイを望んでいるのか』

 などと訊いたら、一生口を聞いてもらえなくなりそうだ。

 やはりここはひそかに本を元に戻し、何も気付いていないふりでやり過ごそう。

 俺はその小さな文庫本をポーチの中に戻し、ベッドのヘッドライトを消したのであった。