~この手をとって抱きしめて~
 
<10>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 翌朝……

 ……何と俺の身体は正直なのだろう。昨夜の残滓が下着を汚しているのに、俺は深いため息を吐いた。

 手早く汚れ物をまとめ、後で洗いに行くことにする。

 

 昨晩の文庫小説のせいだ。

 夢にまで見るなどとは我ながら呆れてしまう。

 夢の中では、主人公の美青年は『セフィロス』その人になっていて、なぜか俺も登場人物の一人であり、淫行に励んでいた。

 『セフィロス』がどんな声で喘いでいたか、綺麗な唇がどんな卑猥なセリフを紡いだか、よく覚えている。

 ……いかん、また下腹が熱くなってきてしまった。これでは十代の子どものようではないか。

 風呂場に洗濯物をまとめて持っていき、ついでにシャワーを浴びて来ることにする。そうすればこの恥知らずな高ぶりも落ち着くというものだろう。

 起き出すには早い時間だったが、俺はベッドを整えると、テキパキと洗濯物をまとめ、風呂場に行った。

 熱いシャワーで目が覚める。

 昨夜の淫夢を消え払わせるために、ごしごしと身体を洗い、熱い湯で流してゆく。

 

 とにかく、『セフィロス』にその気があるか否かなど、この場所で悶々と考えていてもどうしようもないことだ。これから交際していくうちに対応していけばよい。

 だが、間違っても夢の中の俺のように、『セフィロス』を一方的に責め苛むような真似をすることはできない。あれはあくまでも小説としてのおもしろさの部分なのだと理解しておこう。

 

 

 

 

 

 

「おはよー、レオン。今日も城行くの?」

「早く顔を洗ってこい、クラウド。じきに朝食になる」

「わかってるってば。ねぇ、お城行くの?」

 クラウドに、繰り返し訊ねられて、俺はあたりまえだというように頷いた。

「コンピューターのHDをいじりたいのでな。その前に、自警団の視察をして……」

「レオンってば、ホント、熱心だよな。そりゃあ、この場所を、元のレディアントガーデンに戻したいって気持ちはわかるけど、こう毎日じゃ、身体が心配だよ」

 めずらしくもクラウドが大人らしい口調でそう言った。

「俺の身体を心配してくれるのはありがたいが問題はない。城に行くのも気分転換になっていいものだ」

「そうなの?だったら、俺も一緒に行こうかな」

「い、いやッ、それは、やめておいたほうがいいだろう」

 つい強い口調でそう言ってしまう。

「どうしてだよ。まだ俺のトラウマ気にしてくれてんの?」

「……当然だ。おまえはあの城と、水晶の谷には行くべきではない。ましてや何の理由もないのにわざわざ出向くなど論外だ」

 クラウドは、セフィロスに対してのトラウマがある。それは未だに彼の心に深く刻み込まれているのだ。俺と一緒に生活するようになって半年、大分かげんはよくなったものの、手放しで安心と言える様子でもなかった。

「まぁな。俺もあの場所は苦手だけど……レオンと一緒なら……」

「クラウド、俺とどこかに行きたいのなら、いつでも付き合おう。だが、あの城や水晶の谷はやめておけ。……おまえのためだ」

 複雑そうな面持ちの額に口づけを落として、俺は出発の準備を整えていた。

 今日も城に用がある。セフィロスのこともそうだが、コンピューターをいじりたいというのはウソではなかった。

「……わかったよ。レオン、お腹空いた」

「ああ、準備が出来ている」

 そんなやり取りをしながら、俺とクラウドは朝食にありついたのである。

 

 後片付けを終え、今日は先にクラウドを、マーリンの家に送り出してから、俺は外に出た。

 今日はセフィロスからのメールは来ていないが、おそらくアンセムの私室に居てくれるだろう。

 最初、彼に向かって、アンセムの城に居続けて欲しいと願ったときには、素直に聞いてもらえるとは思わなかった。セフィロスはとても難しいところがあるし、これまでひとりで自由に生きてきた人だ。

 いくら想いが通じ合えたとしても、俺が彼の生活に言及することなど、なかなかできようはずもないと考えていたからだ。

 しかし、セフィロスは俺の希望どおり、アンセムの城に居てくれる。人形の城に行くことはあっても、少なくとも俺が訊ねたときには必ずあの部屋で待っていてくれるのだ。

 それは俺にとって、なにより嬉しいことであった。