~この手をとって抱きしめて~
 
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 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 スポンジにたっぷりとボディソープを泡立て、滑らかな白い背中をやさしく洗う。腕を、足を……そして、内股のその部分を洗うときさえ、彼は抗わず大人しく為されるがままだった。

 ついでに長い髪も洗って、すっきりとした気分にさせてやってから、ようやくセフィロスを湯船に入れてやった。これで落ち着くだろう。

 俺も手早く自身の身体を洗い終えると、湯船に浸かる。同じ目線で側近くに寄ってやると、セフィロスはようやく口を開いてくれた。

「……最近、夢をよく見る」

 ぼそりとそう言った。

「そうか。怖い夢なのか?」

 そう訊ねるとセフィロスは、緩慢に頭を振った。否と。

「……言葉にするのもためらわれるような……猥褻な夢だ。私はどこかおかしいのだろうか……?」

「別にそんなことはないだろう。男なら普通にそんな夢を見ることくらいある」

 別に彼を慰めるためというわけではなく、本当にそう考えて返事をした。俺だって夢精するような夢のひとつやふたつ……いや、もっと数多く見た経験がある。男ならばそれほど不思議なことではないと思うのだが。

「……だが、今はレオンがいるのに」

 セフィロスが意外なことをつぶやいた。

「い、いや、それとこれとは話が……」

「レオンがいるのに、淫猥な夢を見る。それもここのところ毎日のように……」

 ざばっと湯を顔に掛けて、彼は瞳が濡れているのをごまかした。むしろ、こちらとしては、『俺が居るのに変な夢を見る』などといわれるのは、男冥利に尽きるといったところで、彼のことを穢れているだの、汚れているだのと思おうはずがないのだ。

「レオンがいるのに……」

「セフィロス、気持ちは嬉しいが、いわゆるそういう生理現象と恋人の有無は関係ないだろう。思い込みが過ぎるというものだ」

「…………」

「さぁ、身体を流して、風呂から上がろう。ずっと浸かっていると茹だってしまうぞ」

 俺はそういって彼を促し、ふたりで浴室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう大丈夫だな、セフィロス。何も悪いことは起こっていない。何の心配もないからな」

 俺はそう告げて、彼の髪を撫でてやった。子ども扱いをいやがられるかと思ったが、今日の彼は、大人しく為されるがままだ。それどころか、俺の胸に頭を寄りかからせて目をつむっている。

 こんなふうに甘えてくる彼は初めて見る。

「……レオンは、私のことが好きか?」

 彼が小さくささやいた。

「ああ、もちろんだ」

「ちゃんと『好き』と言ってくれ……」

「好きだ、大好きだ」

「レオンは私の身体は好きか……?満足してくれているのか?」

 同じ口調でとんでもないことを訊ねられ、つい慌ててしまう。

「身体だけが好きなわけじゃない。アンタの心も、そしてその身も大切に思っている。その……あえていうなら、あっちのほうも……その、十分満足している」

「……私がひどい淫乱で下品な人間であっても?」

 目をつむったまま、セフィロスがつぶやいた。

「何を言っているんだ。今さっきのことなら、何も気にする必要はない。アンタは淫乱でも下品でもない」

「レオン……」

「俺はアンタを愛している。誰にも渡したくないし、渡すつもりもない」

 腕の中にいるセフィロスを、強い力で抱きしめた。

「……ひとりで目覚めると不安になる。レオンが二度とその扉を開いてくれることはないのかもしれないと。私に微笑みかけてくれることはないのではないかと……」

「そんなことはありえない。アンタが来て欲しいと言えば、いつでも俺はここに来る。こうしてアンタを抱きしめて、口づけて……」

 額に頬に口づけを落とした。

「今日のアンタは少し気が高ぶっているようだ。温かい茶を淹れるから、ベッドで待っていてくれ」

 そう告げて、俺はベッドにセフィロスをもたれかけさせた。