~この手をとって抱きしめて~
 
<13>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 どうしたというのだろう。

 ホロウバスティオンに着いてからも、ずっと落ち着いていたのに、昨日、今日と少々様子がおかしい。夢を見ると言っていたが、それが原因なのだろうか。

「茶が入ったぞ。これを飲んで気を落ち着けてくれ」

 俺はヴィンセントさんに教えてもらったカモミールティーを淹れて、セフィロスに渡した。

「……美味しい」

 少し啜って、彼はそうつぶやいた。

「ああ、ヴィンセントさんに教わったからな。アンタの好みに合わせてレシピを聞いてきた。これからもいろいろと試してみてくれ」

「…………」

「コスタ・デル・ソルからここに戻ってきて、少し疲れが出たのかもしれないな。温かい物を腹に入れて、ゆっくりと休むんだ。そうすれば、おかしな夢を見ることもなくなるだろう」

「……レオンは健やかだな」

 セフィロスがぽつりとつぶやいた。

「俺が? まぁ、今のところは健康体のようだが」

「ふふ……おまえといい、その父親といい、魂が健やかだ。私とは全然……」

 『違う』とささやく。

「アンタはひとりで、いろいろと物を考えすぎるんだ。今は俺が側にいるのだから、何か困ったことがあれば、なんでも相談すればいい。アンタの言うことなら、いつでも真剣に受け止める覚悟がある」

「……レオン」

 俺の名を呼んだその口に、唇を重ねる。慣れないことをした恥ずかしさで、頬が火照る。

「レオンからの口づけは、いつでも心がこもっているな」

 彼は唇を指先でなぞりながらそう言う。

「な、慣れないからな。だが、いつでも心は込めているつもりだ。自分のあ、愛する人にすることなのだから」

「レオン……」

 セフィロスの白い手が、投げ出された俺の手に重なる。同じように剣を使うのに、その美しさはまるで異なる。

 

 

 

 

 

 

「レオン……」

 頬を寄せるセフィロスに、

「どうした?」

 と聞き返した。

「レオン……もし、私の中身が、おまえの思っているような人間と違っていても……おまえをがっかりさせるようなことがあっても……気持ちは変らないか?私のことを想ってくれるか?」

「たとえ、何があろうとも俺の気持ちは変らない。アンタのことが好きだ、セフィロス」

 同じ答えを何度も繰り返して口にした。セフィロスの問いも、言い回しは異なっても結局はひとつのことなのだ。

『自分を愛し続けてくれるか』

 と、彼は問うているのだ。何度繰り返し問われても、俺の答えは変らない。だから、しつこく同じ返事を口にする。

『好きだ、気持ちはずっと変らない』

 と……。

 

「レオン、そこのチェストの下の扉を開けてくれ」

 そう言ったのはセフィロスだった。すでに俺にはそこに何があるのかは知っているのだが。

「あ、ああ、わかった」

「本が入っているだろう」

「ええと、この紅色の表紙のか」

 しらばくれてそういいながら、それらをとってセフィロスに渡した。

「これらはジェネシスにもらったものなのだが……」

「表紙から察するに、いわゆる官能小説と呼ばれるものだな」

 俺はどこまでもしらばくれてそう言った。

「そうだ。最初はおもしろ半分で読んでいたんだが……しだいに興奮することに気付いた」

「男なら普通だろう。官能小説というくらいなのだからな」

 実際、俺は昨夜読んでいた本の影響で、朝っぱらから寝間着を洗うはめになった。

「……夢によく見るのだ。なぜか私は主人公で……これらの本に書いてあるような辱めを受けるのだが……」

「…………」

「……心に反して興奮してしまう。私には被虐嗜好があるのだろうか」

 淡々と訊ねられ、俺は返答に窮する。