~この手をとって抱き寄せて~
 
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 放り出されたのはコスタ・デル・ソルのノースエリアという場所であった。

 ヴィンセント・ヴァレンタインたちの家がイーストエリアなのだから、そこからもそう離れていない場所だ。

 なにより目的のジェネシスが、ノースエリアにいるはずだ。

 ちょうどよかった……と考えるべきだろう。

 

 私はうろ覚えの地理感で、ジェネシスの住むマンションへと足を踏み出したのであった。

 

 街灯の流れに沿って、私は道を歩いた。ホロウバスティオンでは午前だったが、こちらではもうとっぷりと陽が暮れてしまっていた。

 それが私の足を速めさせる。

 夜になってしまうと、まったく道がわからなくなってしまいそうだったから。

 

 そうだ……ジェネシスのマンションの前にも、こんな形をした街灯があった。

 そこに突っ立っていた私を、ジェネシスが見つけてくれたのだ。

 

「確か……この道をまっすぐに行って……」

 外を歩くには、エスタ風の長い衣は動きにくかった。もっと別の服を着てくればよかったと後悔したが、今さらのことだ。

 

 知らない間に奥の細道に入り込んでしまい、にわかに辺りが暗くなってきた。

 

「こっちではなかったか……」

 ため息をひとつ吐き、引き返そうとしたところ、数人の男に道をふさがれた。

 

「……?」

 どれもこれも見たことのない顔だ。こんな品のない連中、イーストエリアのあの家の面々もジェネシスも付き合いがないだろう。

 

 私はそれらを無視して道を引き返した。

 

 

 

 

 

 

しかし、男たちはさらに道をふさぐように移動し、その中の長身の男が私の手をとった。

「……なにをする」

 不快を隠さず私はそう言放った。

「『なにをする』だって、この綺麗なお坊ちゃんは。最初は嬢ちゃんに見えたが、これだけ背が高いんだ。男の子だよねぇ、ひっひっひっ」

 野ねずみが笑うように、引きつった笑みを浮べてのっぽが言った。

「この辺じゃめったに見ない上玉だぜ。傷つけるんじゃねぇ」

 低いがドスの利いた声が、背後から飛んでくる。小太りでがたいのいい男だった。

「それじゃ、このままアジトへ連れていくぞ。暴れたりしたらわかっているんだろうな」

 のっぽのとなりにいた痩せぎすの男が、私の顔にナイフを突きつけてきた。

 

 ……どうやらこのやりとりから推察するに、この5、6人の男どもは、私を拐かそうと考えているのだ。

 

「ただでさえ、目的地が見つからなくてイライラしているときに……」

 私は引き寄せられた腕を振りかぶって、右手を自由にした。

「退け、貴様ら。一度しか言わない」

 私は連中をにらみつけて、低く言った。

 

「おい、ちゃんと掴んでいろといっただろう。おい、嬢ちゃん、怪我をしたくなかったら大人しくするんだ。こいつが見えないわけじゃなかろうよ」

 ナイフ男が、白刃のそれを私に突きつけて脅す。

「……ゲスどもが」

 私はナイフを持った男の手をつかみ、容易にひねりあげた。関節の外れる鈍い音が響く。

「この……」

「やっちまえ!」

「顔は殴るな!こいつは商品なんだからなッ」

 わっと残りの男たちが跳びかかってきた。

 私は丸腰のまま、構えをとった。