~この手をとって抱き寄せて~
 
<5>
 
 

 

 

 

「うーん、ようするに、俺があげた本を読むと、その世界と同じような夢を見ると言うんだね。しかも自分は主人公で俺やレオンに辱められちゃうと……」

「そ、そうだ!あの本にはなにかからくりがあるのだろう!読んだら必ず見るのだからな!」

 私は力を込めてそう言った。

「うーん、困ったなぁ」

「困っているのはこっちのほうだ。早くからくりを教えろ!」

「だからね、本には何の仕掛けもないよ。ただの官能小説本」

 ジェネシスが苦笑しながらそう言った。

「バ、バカな……!どこが普通だ。必ず夢に見るほど暗示が強いのだぞ!」

 ジェネシスはさらに笑みの色を濃くして、

「うーん、それは本が問題じゃなくて、君が影響を受けやすいだけなんだと思うよ」

 と言った。

 申し訳なさそうに、ジェネシスが続ける。

「官能小説だからね。興奮できるように書いているわけだけど、たまに君みたいに影響を強く受けすぎて、夢に見てしまう人もいるようだよ。もっとも作家冥利につきるとも言えるんだけど」

「……な、なんだと」

「だからね。夢を見てしまうのは、君の好奇心やあこがれのようなものが強すぎて、世界観に酔ってしまうせいだと思う。そこに俺が登場するっていうのも、ある意味、君の願望もあるんじゃないのかな」

 困惑したようにそう告げられる。

「そ、それじゃ……夢を見るのは……私自身のせい……だと?」

 喘ぐようにそう言った私に、ジェネシスは苦笑しながら頷いた

「バカな……」

 私は緩慢にかぶりを振った。

「あの夢は、私が望んでみているものだというのか……?あんな辱めを受けているのに……」

「うーん、そうとしか言いようがないんだよね。実際、あの本には種も仕掛けもないのだから」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 私はどすんとソファに頽れた。

 あまりにもショックだったからだ。

 

 私自身があんな恥ずかしい目に合うのを希望しているというのか?

 

「ただの夢なんだろう?それほど気にしなくていいんじゃないか?」

 ジェネシスは声を励ましてそう言った。

「だが……ほとんど毎日なんだぞ……あんな恥ずかしい……」

 思わず情けなくて涙が出てくる。

「あれれ、そんなに深刻にならなくても……泣かれちゃうとは困ったねぇ。お酒が回ってしまっているのかな」

「バカ!泣いてない!」

 差し伸べられたジェネシスの手を、勢いよく振り払う。

「じ、自分が情けないだけだ……あのような淫夢をたびたび見るなど」

 

「まったく君は可愛いなぁ。そんなに思い詰めていたんだね。いいじゃないか、そういう嗜好があっても。別に全然悪いとは思わないよ」

「……嫌だ!恥ずかしい」

「ふふ、そんなに恥ずかしいことをされちゃうんだ。そっちのほうに興味があるね」

「だが、どんなにひどいことをされても、私は……悦んでしまって……もっともっとと……自分からねだるような真似までしてしまうのだ。それも私の願望だというのか」

「……う……ん、君にはそういう嗜好があるのかもしれないね。虐められ、辱められることを快楽だと受け止めてしまうような資質が」

「…………」

「否定しなくていいじゃないか。君が望めばその快楽が手に入るんだろう?言葉にし難いほど虐められたいだなんて、ますます君のことが可愛くてたまらなくなったよ」

「ジェネシス……」

 ぶるると自身の背が震えるのを感じた。

 あの世界に行っているときと似ている、苦みのある……だが、どこか甘美な悦楽の世界だ。