〜First impression〜
 
<4>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 

「正面から入ると、中をかなり歩き回ることになる。用事があるときは、裏通路を使った方がいい」

「……わかった」

「最初にこっちに来てくれ。コンピュータルームだ」

 リモコンを操作して、メインドアをオープンにする。そしてまずはメインコンピュータールームへクラウドを案内した。

 彼は少し驚いたように辺りを見回していた。

「クラウド、こっちだ」

「え、あ、ああ」

「ここの扉は基本的に手動では開かないようになっている。このリモコンに暗唱を入力してくれ。パスワードはこの通りだ。クローズするときにも、パスワードがいる」

 俺は、彼の目の前でリモコンを操作して見せた。

「…………」

 小難しい顔をするクラウド。

「大丈夫か?」

 と訊ねてやると、またもやムッとしたように顔を背け、

「あたりまえだろ」

 と言い放った。

 どうやら彼はCPなどの操作は不得手らしい。こういったことに拒否反応を示す人間は少なくない。シドほど使える輩は少なかろうが、とりあえず最低限のことだけ伝達する。

 

「このメインCPでプログラムの起動をする。Ctrl+Aか短縮キーF1でホロウバスティオンの全景……こっちのファイルには、アンセム関係のレポートが入ってる。マーリン氏がまとめたものもあるが、アンセム自身の作成したものも残っている。……時間があるときに目を通しておいてくれ」

「……わ、わかった」

「そして、こっちは俺がまとめたデータだ。現れたハートレスの形態や特徴などをインプットしてある。ノーバディー関係のはコイツだ。もっともこっちはまだまだ資料としては不十分だが、傾向と対策の参考にはなると思う」

「……アンタが、作ったのか……コレ」

「まぁな」

「…………」

「クラウド?」

「……別に、驚いたわけじゃない。訊いてみただけだ」

「……? そうか? 他に何か訊いておきたいことはないか?」

「ない」

 明らかにさきほどよりも機嫌の悪い様子だ。もともと無愛想とはいっても、こんな間近で見ていれば感情の起伏が読みとれる。それに、クラウド自身、実は気持ちの変化が表に現れやすいタイプなのだと感じる。わかりやすいキャラクターといえばいいだろうか。

 

「そろそろ出よう。次はアンセムの私室に案内する」

「……わかった」

「クラウド、コンピュータールームを閉めてくれ」

「え……?」

「さっき教えたとおりだ」

「…………」

 クラウドは躊躇しながらも、リモコンを手にし、キーを打ちこもうとする。だが扉は一向に閉まらない。

 

「……クラウド?」

「おい、コレ、壊れてるぞ」

「いや、あのな……」

「数字しか出てこない。アルファベットじゃないとキーワードは……」

「切り替えボタンがあるだろ」

 俺は多少辟易としてそう言った。

 

「き、切り替えボタン?」

「パソコンと同じ、入力切り替えボタンだ。数式表示じゃなく英字表示に変えてくれ」

「……どれ?」

「これだろう」

 俺は英字/数字の切り替えボタンを押してやった。

「紛らわしい」

 文句をいうクラウド。

「キーワードがアルファベットなんだから、最初から英字にしておけ」

「……いや、ドアのオープンはともかく、可動書架は数字入力で動かすからな」

「…………」

 ぶすっと音がしそうな面もちでふくれるクラウド。彼の年齢は知らないが、俺より年少なのかもしれない。細かなことで機嫌を損ねることが多く、気むずかしい子どもを相手にしている気分になってくる。

 

 メインCPルームの扉をクローズし、クラウドをアンセムの私室に案内する。

 私室とは言っても書斎のようなものなのだろう。隣室にはベッドルームも付いている。その反対側の扉が、メインCPルームへの廊下につながっているのだ。

 さらに言うと、その廊下の突き当たりがCPルーム。ふたまたに分かれた一方は吹き抜けの整備室になっており、広いホールの向こう側に、ヘリコプターと迎撃用ミサイルが設置されている。

 そこは最後でいいだろう。

 

 まずはクラウドを、アンセムの私室に通した。

「資料室も兼ねている部屋だが、まだまだ解読は進んでいない」

「……へぇ、案外普通の部屋なんだな」

「どういうことだ?」

「あんなことをしでかした科学者だから……もっと異常な雰囲気かと思った」

「……そこに肖像画があるだろう」

 俺は、壁に掛かった人物画を指し示した。

 

「……これがアンセム?」

「だろうな」

 俺は頷いた。

 科学者……というと神経質で腺病質な印象を受けがちだが、肖像画の青年にそんな雰囲気は微塵にも感じられない。健康的な肌の色に美しい銀の髪。フリルのアスコットタイを締めた青年科学者は、いっそ貴族的といえるほどだ。

「……あまり科学者ってイメージじゃないな」

「俺もそう思う」

 クラウドに同意する。

「……銀の髪……」

 その後、独り言のように、彼はつぶやいた。

 無意識でのことなのだろう、彼は口元を押さえ、肖像画から目をそらせた。

 

「クラウド、最後はこっちの部屋だ」

 急かすようにアンセムの私室から連れ出す。

「…………」

「部屋というよりは、ホールだな。ここも電子ロックだが、手動でも開けられる」

「……ああ」

「迎撃ミサイルや一部の兵器が収納されている。一応見ておいてくれ」

 ロックを解除し、中に歩みを進めた。クラウドも俺の後についてくる。

 

「へぇ……すごいな」

 当然、機器は防弾ガラス越しにしか見られないが、透明ガラスの向こう側には、ぎっちりと最新兵器が並んでいた。

「ああ、セキュリティは、こっちのCPと、メインプログラムでコントロールされている。まぁ、おまえは触らないほうがいいだろうな」

「……触るかよ」

 クラウドは、憮然とした表情で言い返すが、アンセムの室にいた時のような、張りつめた様子はなくなっていた。

「そんなところだ。……疲れたか?」

「……何だ、それは。歩き回って話を聞いただけだろ」

「それならばいい。そろそろ戻……」

 俺がそう言いかけたときであった。

 

「ほぅ、なかなかの設備だ……街一つくらいは簡単にツブせるな」

 

 覆い被せるように、かつて一度だけ耳にした男の声が重なった。