〜First impression〜
 
<5>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 

 カツンカツンと硬質の音を立て、こちらにゆっくりと歩いてくる人物……

 黒ずくめの衣装……銀の髪が歩みに合わせて、風に舞う。

 

 俺の背後に立つクラウドが、微かに喉を鳴らした。

 

「また会ったな……ホロウバスティオンの英雄」

 クラウドを無視し、俺に向かって、嬲るようにセフィロスは言った

「レオンだ」

「そう……レオンだったな。失礼した」

「ここで何をしている?」

 俺は重ねるようにそう問いかけた。

「別に……面白そうな城があったので中を覗いてみただけだ。おまえに会えるとは運がいい」

「……悪いが、この城は街の中枢部でもある。部外者の出入りは禁止だ」

「面白い男だな、おまえは」

「至って真面目に話しているつもりだが。ここは俺たちの街だ。害を及ぼすつもりなら、誰が相手でも全力で阻止する」

「フッフッフッ……」

 俺の言葉を耳にすると、セフィロスはひどく楽しげに笑った。

 ゾッとするような禍々しい微笑だ。

 

 ツ……と足を前にすすめると、セフィロスは長刀を構えた。

「セフィロス……ッ!」

 そう叫んで、剣を手に、俺の前に飛び出したのは、クラウドだった。

「おい、クラウド……!」

「下がっていろ、レオン!」

 

 鼻で笑うセフィロス。

「フフン……なんだ、居たのか、クラウド」

「どういうつもりだ……ッ! ここから出て行けッ!」

「ほぅ、もうそんなに動けるのか。さすがに回復が早いな」

「……ッ!! うるさいッ! アンタが狙っているのはオレだろう! さっさとこの場所から……」

「うぬぼれるな」

 セフィロスが遮った。ひどく冷ややかに侮蔑を含んだ声音で。

 

「この私がおまえひとりを相手にすると思うな」

「な、なに……」

「おまえひとりでは役不足だ。ガキの相手は暇な時だけだな」

「この……ッ!」

 クラウドの身体が空に舞う。大剣がライトの光を受け、蒼い光を放った。

 振りかぶる剣を、セフィロスの長刀があっさりと振り払った。

 キィィィン!と、固い音が響き、クラウドの手から大剣がはじき飛ばされる。

「くっ……」

「フフフ、どうした、そらッ!」

 威嚇で突きを繰り出すセフィロスの剣を、クラウドが寸でのところでかわす。

 バカな……クラウドらしくもない、あまりに無茶すぎる攻撃だ。

 一目見ればこの男の実力は計れる。万全の状況で臨んだとしても勝機は少ないのに、満身創痍のクラウドでは話にならない。いや、それよりなにより、あんなに動揺していては勝負にならないだろう。

 

「くそ……ッ!」

 壁に突き刺さった剣を引き抜き、再度構えをとるクラウド。

「よせッ! クラウド!」

 俺は怒鳴った。

 だが、次の一手はセフィロスのほうから仕掛けられた。

 

 彼の身長ほどもありそうな長刀がクラウドを襲う。

 華麗に空を舞う刀身から、ビュッビュッと風を弾く音が聞こえ、そのたびに、クラウドの金の髪を薙払い、服の袖を裂き、白い頬を切り裂いた。

「クラウドッ!」

「来るなッ! ぐぁッ……」

 あろうことか、セフィロスは壁に追いつめたクラウドの胸ぐらを、片手で締め上げた。

 クラウドの足が空に浮く。

 銀髪鬼は、持ち上げたクラウドの鳩尾に、強烈な手刀を喰らわせた。

 

「グハッ!」

 唾液を吐き出し、床に頽れるクラウド。

 だが、セフィロスは間髪入れずに、その力無い身体を引き上げた。片手で顎を取り、上向かせる。

 さきほどの一撃が効いているのだろう。クラウドは膝立ちの姿で為されるがままだ。

 

 ……セフィロスの朱い口唇がうっすらと孤を描く。

「おまえに私を倒すことなどできるはずがない……」

 いっそやさしいとさえ言える声音で、クラウドにそう語りかけた。

 グイと顎を引きよせ、まるで互いの顔が重なるほど近くに引き寄せる。

「なぁ……可愛いクラウド……」

「…………ッ」

「おまえは私がいないと生きていけない」

「……は、はな……せ……」

「おまえを満足させてやれるのは私だけだ……」

 恋人への睦言のようにそうささやくと、セフィロスはクラウドに口づけた。

 俺は、まるで何かの映像を見せつけられるように、その場面を目の当たりにして佇んでいた。

 

 セフィロスが、彼の口腔を嬲りつつ、目線だけをこちらに寄越す。

 背筋の凍り付くような蒼い……蒼い瞳……クラウドと同じ色の……

 

「そら、クラウド……あいつに教えてやれ」

「…ハァッ……ハァハァ……」

「おまえがどれほど、私を必要としているのかを……」

 セフィロスがささやく。

「…………ッ」

 クラウドが息を飲む。

「……その傷をどうやって刻んでもらったのかを……」

「……セフィ……ロ……」

 大きな瞳が恐怖に瞠られてゆく。

 

「そして、おまえがどんなふうに悦んだのかを……」

「や……やめ……ッ」

 

「やめろッ!」

 ガウンガウン!

 ホールに銃声が響いた。

 俺はカンブレードを引き抜くと、セフィロスに狙いをつけた。

 

「……クラウドから離れろ」

 あの程度の威嚇射撃で臆するセフィロスではないだろう。
 
 見事に身をかわして、クラウドと距離をとる。

 支えを失ったクラウドは、跪いたまま前のめりにうずくまっていた。