〜First impression〜
 
<6>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ……わかってもらえたか? レオン」

 形のよい口唇を、クッと持ち上げて、滴るようにセフィロスが言った。

 

「…………」

「この子のほうが、私を必要としているのだということを」

 セフィロスはあのときと同じ言葉をくり返した。

 うずくまるクラウドを見る。彼は顔を上げることすらしない

 

「……仲間を傷つけるヤツは許さない」

 俺は低く言った。

「知り合いじゃなかったのか?」

 と茶化すセフィロス。

「語弊があった。……仲間だ」

 俺は修正した。

「フフフ……本当に面白い男だな」

「…………」

「気に入った」

「迷惑だ」

 即座に言い返す。

 

「……そういうところが面白いのだ。いいだろう、その子はしばらくおまえに預けよう」

「クラウドの自由だ。勝手なことを言うな」

「クックックッ……次に相まみえるとき、おまえとクラウドが一緒に居てくれれば手間が省ける」

「…………」

「では、さらばだ、レオン」

 一方的にそう言い捨てると、次の瞬間、セフィロスの姿は闇に融けていた。

 

「…………何なんだ……あいつは」

 俺の独り言に答えるヤツはいない。

 ハッと気付いて、クラウドに駆け寄る。彼は先ほどの姿勢のまま、地に膝をついている。

「クラウド、大丈夫か?」

「…………」

 返事をしてくれない。

 下を向いた頬から、ツ……と血が伝い、床にポトリと落ちる。

 セフィロスの斬撃が、思ったよりも深かったらしい。

「上を向け、クラウド。血止めをする」

「…………」

「おい、クラウド?」

「……触る……な」

 クラウドがつぶやいた。

 ヤスリ紙を摺り合わせたような声音は、ザリザリと掠れていて途切れがちであった。

 

 ……困惑する。

 こういうときに、どういった言葉をかけてやればよいのか見当も付かない。

 下手な慰めを口にするよりも……と人は言うが、その『下手な慰め』すらも思い浮かばないのだ。

 だが、怪我人を放っておくわけにもいかなかった。今つけられた傷だけでなく、ただでさえ癒えていない傷痕があるのだ。

「クラウド、立てるか? 街に戻るぞ」

「…………」

「肩に腕を回せ。すぐに医者に……」

 そう言って彼の腕を取ったときだった。電流が走ったように身を震わせ、クラウドは俺を睨め付けて叫んだ。

 

「触るなッ!」

「クラ……」

 彼は俺の手を押しのけた。バシッと音を立てて叩かれる。

「触るなッ! 見るな……オレを……見る……な……」

 大きな蒼い瞳から、とめどなくこぼれ落ちる涙。頬の血が混じり細い顎を伝って床に落ちる。

「クラウド……」

「見ないで……くれ」

「…………」

 どうすればいいのだろう。

 なぜ、こんなふうに彼は泣くのだろう。

 セフィロスに負けたのがくやしいのか? それとも好きなように嬲られたのがつらかったのだろうか。傷の痛みで泣くような男ではない。それはわかっている。

 

 いずれにせよ、俺のなすべきことはひとつだった。

 罵られようが殴られようが、傷ついた彼をここから連れ出し、安全な場所で手当を受けさせること。

 この城にクラウドを案内してきた、俺の責任だった。