〜First impression〜
 
<8>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

クラウドが俺を見る。

 吸い込まれそうな蒼い瞳で……

 

「アンタみたいなヤツには信じらんないだろうね……」

 クスッと小さく彼は笑った。

「好きなように罵られて……こんな傷をつけられて……口に出せないような辱めを受けて……でも、オレ……感じるんだよ、興奮するんだ」

「…………」

「可笑しいだろ? ちゃんと身体が反応するんだよ……そうなるように覚え込まされてる……そうすると自分で自分を止められなくなる。プライドも意志もなにもかも……根こそぎもぎ取られるみたいに……セフィロスしか見えなくなる」

 彼の口からこぼれ落ちた言葉は、ひどく生々しく瞠目すべき告白であった。

 

『……私を必要としているのはこの子のほうだ』

 

『コレは私がいないと生きていけない。いつでも私の姿を捜し、追い求めている』

 

『わかるか……? コイツの望み通りに、満足させてやれるのはこの私だけだ』

 

 セフィロスの言葉が脳裏をよぎる。

 毒の滴るような微笑と共に……

 

 もちろん、俺だとて、クラウドの言葉に衝撃を受けないわけではなかった。

 だが、その事実を知ったところで、彼を疎ましく感じたり、おぞましいと忌避する気持ちにはなれなかった。

 

「……もう行けよ」

 クラウドはうつむいたまま、そう言った。

「アンタのいうとおり、ちゃんと手当はするから。ひとりにしてくれ」

「…………」

「……悪いけど、今の話は他のヤツには言わないでくれ。やっぱり……あまり知られたくない」

 すでに涙はとまっているのだろう。こすれて紅くなった頬を隠すように、クラウドはつぶやいた。

 

「なぜ、俺に話した?」

 そう彼に問いかける。

「……ごまかしようがないだろ……あんな場面に居合わせられて」

「そうか。なら、もう俺の前で隠し事をしたり、虚勢を張る必要はないな」

 俺は有無を言わさず、クラウドの腕を取った。そのまま立ち上がらせる。

「おいッ……オレは……げほっ……ごほっごほっ……」

「大声を出すな。腹が痛いだろう」

 あの長身から繰り出す手刀を、もろに喰らったのだ。彼が思っている以上のダメージがあったはずだ。

 

「…………」

「ほら、乗れ」

 俺はジャケットを脱ぎ、片膝をついて前屈みになると、クラウドに背を向けた。

「え……」

「早くしろ。街に戻るぞ」

「だっ……て……なんで……」

 クラウドの戸惑いが心細げな声に表れる。

 

「いいから早く負ぶされ。傷が痛むんだろう」

「…………」

「さっさとしろ」

 そう促すと、ようやく黒の革手袋が、おずおずと俺の肩に触れてきた。

 背に彼の重みが加わる。

 俺は、クラウドを背負い上げ、俺の上着を羽織らせると、早足で歩き始めた。

 

「…………」

「……痛むか?」

 足場が悪く、ひどく揺らしてしまうのが気になって、背のクラウドに声をかける。

 だが、彼はすぐには答えなかった。

 ふたたび、歩みを進めようとしたとき、風の音に消されてしまいそうなつぶやきが背後から耳に入った。

 

「……痛い……」

「……クラウド?」

「……痛いよ、レオン……」

 ぎゅっとシャツの肩口が握り締められた。

 彼が顔を押しつけた辺りが、熱く濡れてくる。

「……痛い」

 掠れた声でそうくり返した。

 

「……大丈夫だ。もう何も心配するな」

 子どもに言い聞かせるような言葉が、自然に口からこぼれ出た。