〜First impression〜
 
<9>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 オレはクラウドを、なじみの医者のところへ連れていった。

 カドワキというこの女医……いや、女傑は、手際よく処置を施すと、カーテン一枚を隔て、控えていたオレを呼びつけた。

 

「終わったよ。ったく、若いモンはすぐにヤンチャしやがる。おまえさんもだよ、レオン。ちっとは身体を労りな、ふたりとも!」

 フンと鼻息荒く吐き捨てると、カドワキ医師は治療を終えた。縦はともかく、横は俺の倍くらいもありそうな女性だ。

「いや……先生、そういうわけじゃ……」

 無駄かと思ったが、口答えする俺。

 案の定、あっさりと遮られて、注意を受けた。

 

「いいかい、レオン。痛み止めと熱冷まし、三日分出しておくからね。ウチに戻ったら、身体をあたためて、ちゃんと寝かせること。痛み止めは、腹に何か入れさせてから飲ませな。夜、熱が出るようだったら、お湯で溶いてコイツを飲ませるんだよ。湿布と包帯も入れておくから、こまめに取り替えるように」

「…………」

「わかったのかいッ?」

「……わかった」

 一挙にまくし立てられて、俺は押し切られるように頷いた。

 初対面のクラウドは、この女傑に驚いてしまっているのだろう。黙ったまま座っている。この前、宿で彼を治療してくれたのもこの人なのだが、彼女が居る間、クラウドは意識を失っていたのだ。

 

 カドワキ医院を出て、ふたたび彼を背負い上げようとするが、なんだかひどく照れたように、「大丈夫だ」とくり返す。

 落ち着きを取り戻し、さきほどの一件がこの上なく羞恥を掻き立てるのだろう。

 今さらだと思うのだが。

 

 ぎこちないクラウドの歩みに合わせて、俺たちはゆっくりと歩き出した。

 その間に、必要なことを聞いておこうと考えていたので、ちょうどいいとも言える。

 

 俺は、ホロウバスティオンでの彼の滞在先を訊ねた。

「……別に」

 と答える、クラウド。

「『別に』じゃないだろう。宿をとっているのか? 荷物は? 安全な場所なのか?」

「……宿……とることもあるけど……この前はそこらで寝てた」

「なに?」

「……城のほう……廃屋とかあるだろ。だからそこで……」

「この前って、あの怪我の後か?」

 俺の声が非難がましく聞こえたのだろう。クラウドは目をそらせて、小さく頷いた。

 

 呆れてモノが言えない。

「…………」

「……なんだよ、なに怒ってんだよ……」

「怒りたくもなるだろう? どうしてそんな無茶を……」

「…………だって」

「……わかった、もういい」

 大きな溜め息を吐いて、そう言ってやった。

 クラウドが、一瞬怯えたような眼差しで俺を見る。今日一日で、ここ数ヶ月分以上に、彼の多くの表情を目にしていた。

 

「違う、そういう意味じゃない」

 よくないことを考えているのだろう。すぐにクラウドの心配を否定してやる。

「……な、なんだよ、そういう意味って……」

「とにかく、一緒に来てくれ」

「おい……ちょっ……オレ、嫌だよ、みんなの居るあのじいさんの家とか……」

 口の中でもごもごと不平をつぶやくクラウド。本当に子どもみたいだ。

 

「そうじゃない。来てもらうのはオレのねぐらだ」

「え……?」

「広い家じゃないが、おまえの寝る場所くらいある」

「え……な、なに言ってんだよ……アンタ……」

「言葉通りだ。悪いが当分そこに居てくれ。せめて傷が完治するまでは、勝手にひとりで動き回るな」

 クラウドは黙ったままだ。

 俺の物言いがよくなかったのかと不安になるが、いちいち機嫌をとっているわけにもいかない。

 カドワキ医師の言うとおり、身体を温め、食事をさせて眠らせなければ。

 

「……アンタのところに?」

「そうだ。俺以外、人はいない。気遣いは無用だ」

「……なんでだよ」

「さっき、医者が言っていただろう。聞いていなかったのか? ちゃんと薬を飲んで眠れと言われただろう」

「違うよ……そうじゃなくて……なんでアンタのとこに……」

 ブツブツと口の中でつぶやく。

 本当に気むずかしいヤツだ。身の置き所を指示されるのは不快なのかもしれないが、今はそれどころではないだろう。

「クラウド、気に入らないのはわかるが……」

 なんとか宥め賺そうとしたところ、クラウドに遮られた。

 

「なんでオレのこと、連れてくの? 気味、悪くないのかよ……」

 尻下がりに声が小さくなる。

「……は? なにを言ってるんだ、おまえは」

「だって……」

「だってじゃないだろう? 頼むから素直に言うことを聞いてくれ」

「……でも……オレ……」

 ぐだぐだと煮え切らないクラウドに、いつまでも付き合ってはいられなかった。

 この場所からなら、それほどの距離はなかったが、俺は適当に車を呼び止め、クラウドを乗せた。
 
 目的地を運転手に告げ、道の指示をしている間も、彼は落ち着かない様子で終始無言であったがかまわず走らせた。