〜First impression〜
 
<10>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 市街地のノーズエリア……マーリンの家よりも、わずかに中心地から外れた場所に俺の家はある。町外れなので繁華街からは距離があるが、日用品を調達するような小さな店には事欠かない場所だ。

 もっとも、俺の家とはいっても、ホロウバスティオン再建の活動のために、便宜的に借りている仮住まいだ。多忙なときは戻らないことも多いし、この家でゆっくり時間を過ごしたことなど数えられるほどしかない。

 ダイニングキッチンに広間、そして個室が3つほどの平屋の小さな家だ。

 ひとつは俺が寝室として使っており、もうひとつには本棚を詰め込んである。残りの一部屋は来客用で空けてあるから、そこをクラウドに割り当てればいいだろう。

 

「ここだ、入ってくれ」

 俺は鍵を開けると、クラウドを中へ促した。 

「……ここ……アンタんち?」

「ああ、借りているだけだがな」

「ひとりで……住んでんの?」

「ああ」

「ゼータク……」

 クラウドは小さくつぶやいた。

 

「おい、クラウド。風呂、沸かすから、ソファにでも座って大人しくしていろ」

 ものめずらしそうに、キョロキョロとあたりを見回す彼に声をかけた。

 俺の声が聞こえているのかいないのか、広間の窓を開け、庭を覗いたりしている。それでも少しは元気が出たのだろうか。それならばいいのだが。

 風呂に湯が満たされてゆく。小さな家の割りには、水回りが充実している。キッチンも広いし、風呂場にもゆとりがある。残念ながら家主がこの俺では、その機能を十分使ってやれてるとはいえないが。

 

 風呂が沸いた。 

「クラウド、風呂に入れ」

 俺は彼に声を掛ける。

 身を乗り出すように、窓から景色を眺めるクラウド。チョコボの尾を連想させる髪型のせいだろうか。そんな後ろ姿はなんとなく可愛らしい。

「クラウド?」

「え、あ……悪い」

「なんだ、何か面白いものでもあるのか?」

 なにげなくそう訊ねてみると、彼は意外な言葉を口にした。

 

「……いや、なんかキレイだなって……」

「なにがだ?」

「あの……小さい花」

 となりに歩み寄った俺に、クラウドは庭の片隅を指さす。

 そこには、野生のシロツメクサが密生していた。

「……そうだな。今まで気に留めたことなどなかったが」

「……オレもだよ」

 少し寂しそうに、クラウドはつぶやいた。

 

「クラウド、気が済んだら風呂に入れ」

「…………」

「すまないが、着替えは俺の代えを使ってくれ」

「……で、でも……」

「バスタオルとフェイスタオル……中にあるものは好きに使え」

 現実的な会話になると、身の置き所を迷うように、落ち着かなくなるクラウド。俺は意に介さず、パジャマを手渡し、その上にタオルを重ねて置いた。

「バスルームはこの扉だ」

「……え、あ、ああ」

「それから、そのまま、ちょっとこっちに来い」

「…………」

 不安そうな表情のまま、大人しく後についてくる。

「ここがおまえの部屋だ。好きなように使ってくれ」

「…………」

「来客用の部屋だから、身の回りのものはおおかた揃っていると思うが、足りないものはなるべく早めにそろえる。おまえはしばらくここで大人しくしていろ」

「…………」

「いいな?」

 黙ったままの彼に、俺は噛んで含めるように念を押した。

 

「いいな? わかったな?」

「…………」

 黙ったまま、コクンと彼は頷いた。

 それを確認すると、俺は彼をバスルームに放り込んだ。

「身体をきちんとほぐせ。だが温めすぎるなよ。熱が出る」

 一声かけ、リビングに戻る。

 

 クラウドが風呂に入っている間に、食事の支度とベッドメイクをすませなければならない。

 人の面倒など見たことはないのに、妙に手際よく、為すべきコトがわかっている自分が意外でもあり、なんとなく嬉しい気分にさえなった。

  

 クラウドに宛った部屋のベッドに、傷に障らないようマットを重ね、シーツをかぶせる。掛布は、毛足の長いネルにして、掛け布団も新しいものにすげ替えた。

 ホロウバスティオンは、昼はともかく、夜間にいきなり冷え込むことがあるのだ。

 

 剥き出しのソファを、ブランケットで覆う。

 それなりに見られるようになったと思うが、やはり殺風景なのはいかんともしがたかった。基本的に物が少ないのだ。この俺の住処なのだから、気の利いた調度品など置いてはいない。

 

 ふと思いついて、俺は庭に出た。手を入れる暇などないから、草花が好きなように群生している。その中から、さきほどクラウドが言っていたシロツメクサを何本か摘む。

 空いていたジャムの小瓶に水を入れ、花を挿す。

 幸い、凝った細工のガラス瓶は、小さな花瓶の役割を、十二分に果たしてくれそうだった。

 

 そいつを、窓際のチェストに置いてやると、部屋にわずかながらでも暖かみが加わったような気がした。