~この手をとって口づけて~
 
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 飛行艇乗り場はいつでも大抵混雑しているものだ。

 季節外れでもそうなのだから、祭りを控えたエスタの空港は、まさに人がごった返していたといっても過言ではないだろう。

 しかし、その人が歩くと、なぜか道がさぁっと開けてゆく。

 2メートル近くの長身に、長いプラチナの髪。男性なので化粧などはしていないが、肌の色の白さが、相対的に唇の朱を際だたせている。一応、スーツを身につけているが、中はドレスシャツでネクタイなどは締めていない。

 『セフィロス』は空港の待合室あたりをぼんやりと歩いていた。

 

「あッ、いたッ!いたッ! セフィだ。お~い!セフィーッ!こっちこっち!」

「ラグナくん。大騒ぎしないでくれたまえ。君の顔はある程度メディアに知られているのだからね」

 にぎやかな輩に目をやると、そこには見知った顔の男たちが居た。

 このエスタの大統領、ラグナ・レウァールと、補佐官のキロスである。意外にも彼らは顔見知りなのであった。

「……ラグナ」

「いやー、セフィ。元気だったぁ?もうね、セフィからメールの返事が来たときは、ホント、嬉しかったよぉ。よくひとりでホロウバスティオンからここまで来られたね。飛行機で、気分悪くならなかった?」

 怒濤のようにしゃべりあげるのは、若きエスタの大統領ラグナである。

「……問題ない」

 セフィロスはそう応えた。口数は多くないが、決してラグナの歓待ぶりに嫌気が差してのことではないのだろう。その証拠に、ほとんど表情を見せないアイスブルーの瞳が、やわらかくほどけている。

「もう、セフィってば、メール送っても全然返事こないしィ。だからって俺もなかなかエスタを離れられないからさー。すごい心配していたんだよ」

「…………」

「でもようやく返事が来たと思ったら、エスタに来てくれるっていうじゃない。俺もう超カンゲキしちゃって」

「……そうか」

「それにしても、セフィがお祭りに合わせて来てくれるとは思わなかったなぁ。やっぱり人出が多くなるから、鬱陶しいんじゃないかと思ってさ」

「…………」

「あ、キロスが車回してくれるから、あっちの人の少ない出口から出るよー。はい、手、つなご!」

 ラグナはセフィロスの荷物を奪うと、空いた手をぎゅっと握りしめて歩いてゆく。セフィロスは為されるがままに彼についていった。

 

 

 

 

 

 

「まずは、官邸に戻ってゆっくりしよ。どうせ、セフィのことだから、お昼ご飯もまともに食べてないでしょ。何か軽めのものでも口にした方がいいよ。あー、それにしても話が尽きないよ~。ええと、何ヶ月ぶりだっけ?あの頃はまだ寒かったもんね。四ヶ月弱くらいぶりだなぁ」

「……そうか」

「ねぇねぇ、セフィはあっちでは元気にしてたの?ほら、この前帰るとき肩の傷の状態がよくなかったじゃん?」

「……怪我はもうすっかり治った」

 車に乗っても手を繋ぎっぱなしのラグナを見て、セフィロスは独り言のようにつぶやいた。

「それならいいんだけどさ~。その綺麗な身体に傷なんて残っちゃったら大変だし」

「…………」

「でもさ、今回はどんな気まぐれだったの?セフィって、お祭りで騒ぐようなキャラじゃないじゃん?これまで、ずっとメールの返信もなかったのに、いきなりエスタに来てくれるっていうから驚いちゃったんだよ~」

 ラグナが身振りでその驚きを現わすかのように言った。

「……別に」

 と、セフィロスはそっけない。だが、思うところがあったのか、

「……久々にラグナの顔が見たくなった」

 と、付け足しのようにそうささやいたのであった。

「やっだ、もう、聞いた?キロスーっ!俺の顔が見たかったんだってさ!なんかこれって恋人同士の会話みたいだよねーッ」

 水を向けられたキロスは、黙ってため息を吐くだけだ。

 車は大通りを抜け、そのまま大統領官邸に入り込んだのである。