~この手をとって口づけて~
 
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「さぁて、セフィ、疲れたでしょう? まずはお茶でも飲んでお腹になにか入れないとね。ああ、大丈夫。食べ物はもうちゃんと頼んであるから。え?平気平気、軽いお茶菓子みたいなものならセフィも好きでしょう。俺も付き合うし」

 到底、大統領とは思えないマメマメしさで、ラグナは立ち回る。すべてにおいて動作がゆっくりなセフィロスとは好対照だ。

「ラグナくん、明日は午前十時から……」

 キロスが口を挟むが、ラグナはそれをしっしっと追いやるように、

「わーってるわーってる。会議にはちゃんと出るし。今日は久々のオフなんだから、口うるさいこというなよ」

 と言い放った。

「……わかっているのならかまわないよ。ではセフィロス殿もこれで失礼。よい休暇を」

 丁寧すぎるほどの口上だが、嫌みではなく、これがキロスのキャラクターなのである。

 

「閣下、お茶の用意が調いました」

 すでにセフィロスとも顔見知りになっている給仕が声を掛ける。

「もうその閣下ってのはやめてくれっていってんじゃん。ラグナでいいんだよ、ラグナで。さぁ、セフィ、お菓子食べよう」

 ラグナがセフィロスの手をとって、テーブルに着かせる。

 その上には、ケーキにマカロン、スコーンなどがところ狭しと並んでいた。

「セフィは甘いの好きだもんね。取り分けてあげるよ。ケーキはどれを食べる?」

「それ……イチゴのと、チョコレート……」

「はいはい、イチゴショートとチョコレートムースね。後はマカロンにスコーンと。ああ、でもこれじゃ、晩ご飯が入らなくなっちゃうかなぁ」

 まるで母親のように心配するラグナに、セフィロスは甘いものが食べたいとねだった。ラグナは自分の分も適当に取り分けると、彼の向かいの席に腰を下ろす。

「やれやれ、これでようやく落ち着いておしゃべりできるね、セフィ」

「ケーキ……食べる」

「その前に紅茶で乾杯しよ。セフィがエスタに来てくれたことに乾杯~!」

 と、多少行儀悪く、ふたりは茶器を重ね合わせた。

 

 

 

 

 

 

「ところでさぁ、ホロウバスティオンにいる間は元気にしてた? スコールにはセフィのことよろしく頼むぞって言っておいたんだけど」

 マカロンを口に放り込みながら、ラグナが言った。

「……別に。普通だ。何も心配されるいわれはない」

「セフィってば、すぐそれなんだからァ。心配するなって言われても気になるに決まってんでしょ」

「……レオンには……良くしてもらっている」

 目線をティーカップに落としたまま、セフィロスはつぶやいた。

「ああ、あいつ役に立ってる?だったらいいんだけど。ったく俺の息子とは思えないほど、鈍感で不器用なヤロウだからさー。まともにセフィの世話なんかできないと思ってさー」

「…………」

 ケーキをフォークで切り分けながら、セフィロスは無言で食べていた。

「あぁ、そっか。セフィって、お菓子食べてるときは集中しちゃってダメなんだよね。ゆっくり食べな。俺はここで君のこと眺めているから」

 ラグナはそういうと、頬杖をついて、のんびりとセフィロスが食べるのを眺めることにした。

 

「あーもう、セフィってばホント可愛い。食べちゃいたいくらい」

 ラグナは心底でれたような声音でそう言う。セフィロスのほうは菓子に夢中なのだろう。もごもごと口を動かしているだけだ。

「……おかわり」

 セフィロスが言った。

「ダメダメ。そんなにお菓子ばかり食べてちゃ、晩ご飯が入らなくなるだろう。セフィ、疲れてるだろうから、お湯に入って一休みしな」

「ん……」

「セフィ、髪洗う?」

「ん……」

「それじゃ、一緒に入ろうかな★」

 と、ふざけたようにいうラグナだが、当のセフィロスはなんとも思わなかったらしい。むしろ手助けが増えて助かるといった様子だった。