~この手をとって口づけて~
 
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「そうそう、肩と脇腹の傷見せて。もう大丈夫だとはいうけど……」

 さっさと服を脱いでしまったセフィロスに、ラグナが問う。

「傷跡は残るが、もう何ともない」

 裸のままセフィロスがそういう。さっさとバスルームに赴き、湯を使い始める。

 一方、ラグナは、

「ラグナ、行きます!」

 と、宣誓してから、服を脱ぎ、セフィロスの側に腰を下ろしたのであった。

「……人混みが多かったからな……少々疲れた」

 しどけなく髪を掻上げ、セフィロスがつぶやく。

「うわっ、もうセフィってば色っぽい!どうしよう、ラグナ選手、息子のピンチですよ!」

 どこまでもおちゃらけるのはラグナ大統領である。

「ラグナ、何を言っているのだ。それより髪を洗う、手伝え」

「ああ、はいはい。じゃ、セフィは目ェ瞑っててねぇ。お湯流しマース」

 透明な湯が、セフィロスの銀の髪を滑り落ちてゆく。髪にたっぷりと湯を吸い込ませてからでなければ洗うことはできない。

「シャンプー泡立てマース」

 香りの良い液体を手に取り、泡立てながら髪にすり込んでいく。セフィロスのほうは為されるがままに目を閉じてすわっているだけだ。

「はい、お湯流しマース。次はコンディショナーだね」

「適当でいい。早くマットで横になりたい」

 セフィロスはマッサージ用のマットを眺めながらそう言った。

「え、セフィってば、マットプレイをお望みなの!?っていうか、相手はオレでいいのかなッ?」

「……ここにはおまえしかいなかろう」

「えぇッ!……とと、コンディショナー流しマース!」

 シャワーからの湯が、残りの泡を流してゆく。

「後は身体洗って仕舞いだな」

「ん……」

「じゃ、セフィ、背中流してあげるから」

「ん……」

「いい子にしてるんだよ~」

 スポンジにたっぷりとボディソープを泡立てて彼の背を洗う。どこまでも真っ白な美しい背中だ。肩口の傷が薄赤く引き連れているのを見て、ラグナは眉を顰めた。

「傷跡早く消えるといいのにね、セフィ」

「……ん、だがもう痛くない」

「そっか……洗うね」

 ラグナは一層やさしい手つきで、肩の傷跡の部分を洗った。

 

 

 

 

 

 

「よーし、洗浄終わり。俺も完了!湯船に入ろう、セフィ」

「ん……眠たくなってきた」

「まだまだ、お風呂入ってからね」

 セフィロスの身体を背後から抱き上げて、ラグナが言った。普段は他人に面倒を見られてばかりのラグナ大統領であるが、対セフィロスについては、自ら保護者を自任しているようであった。

 ふたりは、もったいないほど広い浴槽に身体を沈める。セフィロスはよほど気持ちがよかったのかうつらうつらと夢見心地だ。

「セフィってば、寝たら溺れちゃうよ。ほら、しっかりして」

「ラグナ、暑くなった。マットで横になる」

「うおっ、目のやり場に困るとはまさにこのことーッ!」

 セフィロスは、湯船から出ると、マットの上でごろりと倒れてしまったのだ。

「ちょっとセフィ。それはマッサージ用のマットだけど。もしかして、俺にラブ・マッサージをお望み~?」

 冗談めかしてラグナが言うが、セフィロスはただ転がっているだけでも満足なのか、そのまま寝息を立てる始末だ。

「あーあ、もう寝ちゃって~。ホント、セフィは誰かついてないとダメなんだから」

 ラグナは一足先に浴室から出ると、ローブを引っかけてもどってきた。優男にしては驚くべき力で、裸のセフィロスをひょいと抱き上げると、そのままサニタリールームへ出て行った。

「ほら、セフィ、ちゃんと立って。バスローブ着て。髪の毛乾かさないと」

「ん~……わかった。……いつもはちゃんと自分でやってる」

 何を思ったのか、言い訳がましくそんな言葉を付け加える。

「今日は……レオンいないし……ちょっと疲れているだけで……」

「はいはい。そのまま座っていればいいからね。髪の毛乾かそーね!」

 ラグナはまめまめしく動き回り、大きな身体をしたセフィロスの面倒を見た。

 長い髪をドライヤーで乾かし、もつれないように丁寧に梳かす。

「やれやれ、こりゃ、ここにいる間はお世話係がいるなぁ。まぁ、もちろん、俺が面倒見るけどさ~」

 頭を撫で撫でしてやると、ふたたび彼は眠たそうにあくびをするのであった。