~この手をとって口づけて~
 
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 翌朝、ラグナはテーブルの上に突っ伏して眠るセフィロスを見つけた。

「セフィ、セフィってば! ダメだよ、こんなところで眠っちゃ~!」

「む……」

「ほら、起きて起きて。風邪引いてないだろうな」

 ラグナが乱暴にならない力で、セフィロスの肩を抱き上げる。

「ん……背中……痛い」

「あたりまえだよ。そんな格好で眠ったら」

 呆れたようにラグナが言った。テーブルの上には、いくつもの笹舟が乗っている。

「セフィってば、こんなに一生懸命になっちゃって」

「ん……いくつか……上手くできた」

「これだけ頑張れば十分でしょ~。まずはベッドに移って、身体を休めて。今夜はあの湖畔まで歩いて行かなきゃならないんだぞ。体調悪くなったら、連れて行けないよ」

 セフィロスの手を引いて、ラグナが含めるように告げた。

「それは嫌だ……」

「いくらセフィがそう言っても、具合の悪い人間をあんな場所に連れて行けるわけないだろ。ほら、朝ご飯の支度が調うまで寝てなさい」

「ん……」

 うとうとと目を擦りながら、セフィロスが頷いた。

 

 ラグナはセフィロスを寝台まで導くと、その額にキスを落とした。

「セフィは頑張り屋さんだったんだね~。でも無理はダメだよ。ほら、お休み」

「……おやす……み」

 そのままセフィロスは眠りに落ちた。

「お祭りの始まりまでまだまだ十分時間はあるからね。安心してお休み」

 それだけ言い置くと、ラグナはセフィロスの私室を出た。

 大統領のラグナには、片付けなければならない仕事がたくさんある。休みの日でも少しずつ片付ける、実は真面目なラグナさんなのである。

 

 

 

 

 

 

「ラグナくん、来客だよ」

 コーヒーを入れ直したキロスが、デスクについているラグナに声を掛けた。

「あー、それって……」

「お察しの通り、息子くんだ」

「あいつ、よく飛行機とれたな~」

 まんざら冗談でもなくラグナはそううそぶいた。

「また例のセフィロス殿のことかね」

「まぁ、そんなとこ。セフィが悪いんじゃなくて、うちのボーズが勘違いして暴走しているだけ」

「さぁ、くわしいことは知らないね。どうするラグナくん。すぐに通していいかい?」

 そう問うキロスに、ラグナは、

「こっちに、仕事部屋に通してよ。セフィはまだ寝ているし」

「わかった。では執務室へ通そう」

 キロスは頷くと、エスタ風の裾引きの装束を翻して退室していった。

 

 五分後……

 

 そこには血相を変えたスコール・レオンハートが仁王立ちしていた。

「よー、スコール。来るかと思ってたけど、やっぱり来やがったな」

「……当然だ。セフィロスはどこにいる」

 手荷物も降ろさぬまま、レオンが訊ねた。

「オレの私室のとなりに部屋をとってあるけど、今はダメだぜ。疲れて寝てる」

「疲れて……? なんだ、どういうことなんだ。具合を悪くしているんじゃないだろうな。アンタがついていながら……」

「あー、もう、落ち着けよ。そういうんじゃないって。今夜の祭りの準備に、ちょっと夢中になっちゃっただけだよ」

「祭り、祭りって……セフィロスもどうしたっていうんだ。そんなものに参加するために、わざわざ単身でエスタくんだりまでやってきたというのか」

 レオンの言葉に、ラグナが言い返す。

「人の価値観はさまざまだろ。セフィは自分なりに関心があったから、はるばるエスタまでやってきたんだ」

「…………」

「ところでよ。おまえとセフィってどうなってんだよ」

「……なに?」

「付き合ってるんだろ。あんまりそういう風には見えないし、見たくないけど」

 仏頂面でラグナが言った。おちゃらけている表情の多い、この男にとってはめずらしいことだ。