~この手をとって口づけて~
 
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「プライベートだ。口だししないでもらおう」

 レオンは突っ慳貪にそう言った。

「あー、別におまえのプライバシーを侵害しようとは思ってないけど?ただ二股かけてんなら、許せねー」

「……どういう意味だ」

「言葉通りに決まってんだろ。言っておくがオレにとってもセフィは大事な人だからな。おまえがハンパな気持ちで付き合ってんなら、譲ってもらおうと思ってよ」

 ラグナはペンを机に置いてそう言った。

「ふざけるな!」

 レオンが咆哮する。

「俺にとって彼は特別なんだ。ようやく思いが通じ合ったというのに……」

「そんなツラで会うつもりか?」

「何?」

「テメーが今どんなツラしてるかわかってんのかよ。セフィに逃げられるぜ」

「……バカな、これは……!」

「保護者づらして、いちいちセフィがすることに眉吊り上げてんじゃねーよ」

「……ッ」

 レオンは自身に舌打ちした。きっと険しい表情をしていたのだろう。

 

 そのときであった。

 執務室の扉が、キロスによって開かれた。

「ふたりとも、セフィロス殿がお目覚めだ。朝食も食べないで寝入ってしまったのだろう?何か口にしたほうが良いと思うが」

「サンキュー、キロス。後のことはオレがやるワ」

 そう言ってさっさと部屋を出て行くラグナの後を、レオンは追った。

「おい、俺も行く」

「好きにしろ」

 面倒くさそうにレオンに返し、ラグナはセフィロスの私室の扉を叩いた。

「セーフィ!ラグナさんだよ。目が覚めたなら、一緒にご飯食べよう!」

 扉の向こう側から、返事が聞こえる。

「開いている……入ってくれ」

 ラグナは遠慮無くドアを開くと、さっさとセフィロスの側に歩み寄った。

「セフィ、具合はどう?ちゃんとお腹空いてる?」

「……問題ない」

 うつむきがちだったセフィロスには、視界にレオンが入っていないようだった。

 

 

 

 

 

 

「ところでさー、今、招かざる珍客が来ちゃってるんだけど、セフィがうざいっていうんなら、追い返すよ」

「……?……!! レオン……」

 セフィロスは顔を上げて、ドアのところに突っ立っている男を見つめた。

 しかし、そのまま、ラグナの後ろに身を隠してしまう。

「セ、セフィロス? どうしたんだ」

 慌てるレオンを横目に、ラグナがいかにも仕方がないといった風に口を開いた。

「オメーが仏頂面してるからだろ。セフィが怖がってるんだ」

「な…… 俺はそんなつもりでは」

「地顔が無愛想なんだから、普通に笑っているくらいがちょうどいいんだよ、おまえはよ」

 レオンは顔に手を当てると、なんとか笑みを浮べた。

「セ、セフィロス、怒っているわけではないんだ。ただ、アンタのことが心配だったから、つい……」

「…………」

 ラグナの後ろに身を隠したまま、セフィロスがレオンの様子をうかがう。

「ただエスタにいるとだけ書いてあったから、なにかあったんじゃないかと気がかりだったんだ」

「……心配……気がかり?」

「そうだ。だから怒っているわけじゃない」

 そこまで繰り返して、ようやくセフィロスはラグナの影から、姿を現わした。

 

「……今宵、エスタで祭りがある。私はそれに参加するためにこの場所にやってきた」

 身の置き所を迷うように、セフィロスがささやいた。

「それが意外だったんだ。アンタはわざわざ祭りだといって観光に行くようなタイプの人間じゃないだろう。しかもわざわざエスタくんだりまで。また俺の親父がよからぬことを企んだんじゃないかと思って、気になって仕方がなかったんだ」

「スコール、テメー失礼なヤロウだな!」

 ラグナがいちいち口を挟む。

「……違う。祭りを知ったのはラグナのおかげだが、やってきたのは自分の意志でだ」

「そ、そうか。いったい何の祭りがあるというんだ」

 レオンの問いかけに、セフィロスは淡い笑みを浮べると、

「……今宵、わかる」

 とだけ答えたのであった。