~この手をとって口づけて~
 
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「そんじゃ、晩飯食ったら、レッツゴーな」

 ラグナは早くも楽な服装に着替えると、セフィロスにそう言った。

「わかっている」

「どこかに出掛けるのか?」

 大統領官邸からは、祭りのイルミネーションが華やかに見える。中央広場はいかにも人の渦で、そこに行ったら離ればなれになってしまいそうな混雑具合だ。

 レオンが外出のことを心配そうに訊ねるのも理解できる。

「ああ、そうだよ。オレとセフィの秘密の場所にな」

 いかにも内緒というように、セフィロスにしーっと指を立てるラグナだ。スコールはひどく不快げに眉を顰めた。

「そんなに気になるんなら、おまえも来いよ」

 と、ラグナが言った。

「セフィロスが行くんなら言われるまでもない。ダメといわれてもついていく」

 目の前に並べられた料理を、がつがつと平らげながらレオンが言った。

「ほら~、セフィもちゃんと食べて。ごはん食べられない人は連れて行けましぇんよ~」

 どこまでも甘やかすようにラグナが声を掛ける。

 当のセフィロスは、祭りのほうが気になるのだろう。窓から見られる、大がかりなイルミネーションに心を奪われている様子だった。

 

「ごちそーさん!」

「ごちそうになった」

 親子はさっさと食事を済ませてにらみ合う形になっている。セフィロスひとりが、あくまでもマイペースに食事をとり、ようやく食後のお茶の時間となった。

「ラグナ、もう出よう。練習はしたが、失敗するかも知れないし……ええと、後は蛍光紙にペンと……」

 茶を飲むのもそこそこにセフィロスが、慌ただしく言う。

「大丈夫大丈夫、笹の葉以外は全部揃っているし、いつでも出掛けられるよ。セフィも落ち着いてお茶飲みな」

「そ、そうか……」

「街のカーニバルには興味ないんでしょ。だったら、そんなに慌てなくても大丈夫」

 というラグナだが、セフィロスはちらりとレオンを見ると、

『やはりもう出掛けたい』

 と、出発をほのめかせるのであった。

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃ、鬼の居ぬ間に出発~!」

 ラグナはセフィロスとレオンを連れて、大統領官邸の裏口からそっと抜け出した。

 鬼の居ぬ間に……の『鬼』とはさしずめ、キロス大統領補佐官のことであろう。

「どこへ行くんだ。街の中央から離れていくぞ」

 レオンが訊ねる。

「いいんだよ。一番の目的は灯籠流しなんだからな」

 ラグナがそう応える。

 セフィロスは、どこかそわそわと落ち着かない風情で、歩みを進めていた。

「それが祭りなのか?」

「そうだよ。昔から伝わる伝統的な祭りだ」

「……思ったより地味だな。こんな祭りにわざわざセフィロスが参加したいと……?」

 セフィロス本人には聞こえないように、レオンがラグナにこっそりと耳打ちした。

「そうだよ。けちつけんなよ。セフィのデリケートで繊細な心はオメーにゃわかるまい」

「……バ、バカにするな。セフィロスのことはちゃんと理解している」

「よく言うぜ。……あ~あ、本当なら、今はセフィとふたりきりでお祭り楽しめたのによ。気の利かねーヤツ」

「それはこっちのセリフだ」 

 互いにケッと悪態を吐きつつ、一行は目的の山間の湖畔に向かう。

 

「はぁ……道が悪いな。こんなところに何があるっていうんだ」

 山間の道は決して歩きやすいわけではない。笹をかき分け、奥へ奥へと進んでいく。

「セフィロス、大丈夫か?歩きにくいだろう。手を貸そう」

 エスタ風の衣装は、見ているだけならば美しいが、到底山道を歩くのに向いているとは言えない。

 レオンはセフィロスに手を差し出して、引き寄せようとする。

「レオン……」

 少し前の彼ならば、素直に手を取ることはしなかっただろう。だが、一度懐に入れた人物には必要以上に親しくなれるセフィロスだ。

 彼は言われるままに、レオンの手を取った。