~この手をとって口づけて~
 
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「セフィロス、大丈夫か?顔色がすぐれないようだが」

「……問題ない」

「それならばいいが……もう歩きっぱなしで一時間くらいになるぞ。ラグナ、道は間違っていないんだろうな」

 レオンがセフィロスの手を引きながら、ラグナに訊ねる。

「昼間にも一度行ってるんだよ。道に迷うことはねェ」

「昼と夜では勝手が違うだろう。さっきから獣道に入り込んだようだぞ」

「文句があんなら、ついてくんな」

 素っ気なくラグナが言う。

「セフィロスが疲れてるんだ。後どれくらいかかるんだ」

「も、もうそろそろ着いてもおかしくはないんだが……」

 ……ラグナに悪気はないのだろうが、彼は基本的に道に迷いやすいタイプの男であった。

「……おい、ラグナ。貴様まさか道に迷っているんじゃ……」

「大丈夫、大丈夫!まだ祭りの真っ最中だ。間に合う間に合う!」

 力強くラグナは請け負った。

「……ラグナ、方向……違う。もっと西側だった」

 セフィロスが困惑したようにそうつぶやいた。

「えーッ?そ、そうだった?じゃ、一度、さっきの岐路に戻って、方向修正しようか」

「い、急ぐぞ。間に合わなくなったら……」

 今度はセフィロスのほうが、レオンの手を引いて歩き出す。

「ラグナ、アンタは前を歩くな。俺が道をかき分ける。セフィロスは道が間違っていないか注意していてくれ」

 足掻くこと一時間。罵り合うこと小一時間ほどで、三人は目的地に到着したのであった。

 

 冴え冴えとした月明かりの中、目的地の湖畔は澄んだ水面をたたえていた。

「……綺麗な場所だな。ここなのか?」

 レオンが月を見上げながらそうつぶやいた。

「は、早くしないと……」

 セフィロスが周囲に群生する、笹の葉を漁る。

「大丈夫だよ、慌てなくても、セフィ」

 ラグナが、せかせかと行動するセフィロスをなだめる。

「だが……葉を折るのが難しくて……時間がかかってしまうかもしれない」

「大丈夫だよ~。いっぱい練習したんでしょ」

「それはそうだが……」

「葉を折るとは?一体この場所で何をするつもりなんだ?」

 レオンの問いかけに、ラグナが面倒くさそうに口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「オメーは何も知らないで着いてきたのかよ。エスタの七夕祭りは灯籠流しをやるんだよ」

「灯籠流し?」

「そうだよ。月光の下で笹舟折って、願い事を蛍光紙に書いて乗せるんだ。おら、街の方見てみろよ。水路に沿うように光が流れて行っているだろう」

 なるほど、エスタの街を見下ろす丘陵にいる俺たちの目には、幾筋もの光の束が、渦を巻いて流れる幻想的な世界が広がっている。

「セフィ、笹舟はどう?」

「は、話掛けるな…今…あッ、痛ッ!」

「どうしたセフィロス。指を切ったのか」

 いくら普通の笹よりも、大きなものといっても扱いがしやすいわけではない。容易に縦方向に避け、笹舟を折るのは難しいのだ。

「大丈夫……少しだけだ」

「俺が代わりにやるから。折り方を教えてくれ」

 レオンはそういうが、セフィロスはがんとして受け付けなかった。

「だ、だめだ……これは自分でやらなければ……」

 新しい葉を手に、ふたたびセフィロスが折り始める。レオンは心配そうに端から眺めている。

 数刻の後、セフィロスは美しい形の笹舟を作り上げた。

「レオン……ラグナ、出来た……!」

 セフィロスが笑った。めずらしい笑顔にラグナが茶々を入れる。

「嬉しそうだね、セフィ。こんなに喜んじゃってカーワイイ!」

 抱きつくラグナを、レオンが引っぺがした。

「後は蛍光紙に名前を書けば、終わりだ」

 セフィロスは持参してきた用紙を寄り出すと、ペンを構えた。

 まずは自分の名を、『Sephiroth』と書いた。そのとなりに、『Squall Leonhart』と、一字の間違いもなく、レオンの本名を書き入れる。

「……俺の……名?」

「これでいい……これで、上手く流せれば……」

「願い事を書くんじゃないのか?どうして俺の名を……」

 不思議そうに、レオンが訊ねる。

「バーカ、スコール、空気読めよ。ふたりの名前を書いて、笹舟が最後まで流れていけば……」

 と、ラグナが言いかけたのを、セフィロスが引き取った。

「ずっと……ふたりで、離ればなれになることなく……一緒に居られるという約束の証になる」

「セフィロス……」

 茫然とした様子で、レオンがセフィロスの名をつぶやいた。