~この手をとって口づけて~
 
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「さ、セフィ。名前書いたんなら、流してみよう」

 ラグナが言った。

「おい、セフィロス。そんなに身を乗り出したら、衣が濡れるぞ」

 慌ててレオンが止める。

「大丈夫……」

 そうはいうが、案の定、袖口と裾を濡らしてしまう。

「セ、セフィロス。風邪を引くぞ」

「平気だ。……そっと流さなければ」

「ああ……そっとだな」

 セフィロスの気持ちに添うように、レオンが頷いた。

 白い手から、笹舟が放たれた。

 緩やかな流れに乗って、ゆらゆらと光を揺らせながら、流れてゆく。

「良かったね、セフィ、上手にできたね~」

 ラグナが自分のことのように、かがんでいるセフィロスの頭を撫でる。

「……願いが叶いますように……」

 ぼそりとセフィロスがささやいた。

「…………」

「……?レオン、どうした」

 先ほどから黙りこくっているレオンに、セフィロスが声を掛けた。

「…………」

「……レオン?」

「……今、口を聞いたら、泣き出してしまいそうだ」

 掠れて消えそうな声で、レオンがつぶやいた。

「レオン……」

「……すまなかった、何も知らずに……だが、言ってくれれば……俺だって一緒に……」

 閉じた目を上から押さえつけて、レオンが口を開いた。

「……レオンは忙しい」

 セフィロスが言った。

「言ったはずだ。アンタのためなら、出来る限りの時間を取ると……ましてや、今回のような……」

「……大丈夫。ひとりでも出来た」

「手に傷を作っただろう? ひとりで、こんな異国までやってきて……何もなかったか?アンタは綺麗で目立つんだから……もっと自分のことに注意を……」

「おいおい、何を説教垂れてんだよ。いいだろ、セフィは自分の意志で、ここに来て、ちゃんと目的を果たしたんだから」

 ラグナが声を励ましてそう言う。

「……それより、レオン。おまえも祈ってくれ。私の願いが叶うように」

 セフィロスは立ち上がると、笹舟の流れていった小川の行き先を見つめた。

「叶う……アンタの願いは必ず叶う。安心してくれ」

 レオンの手が伸び、セフィロスを抱きしめる。

「おい、テメー、人の見ている前で……」

 ぶーぶーと文句を言うラグナだが、今は若い恋人たちを祝福する気持ちもあったのだろう。それ以上は何の小言をいうこともなく、輝くエスタの市街地を眺めたのであった。

 

 

 

 

 

 

「セフィ、ホンットーに同じ部屋にコイツ泊めてもいいの? 部屋なら他にいくらでもあるんだよ?」

 窓の外ではまだまだ明るいイルミネーションが踊っている。

「……かまわない。この部屋は十分に広い」

 セフィロスはそう応えた。

「後は風呂に入って眠るだけだ。アンタは出て行ってくれ」

 いかにも邪魔者というように、レオンがラグナを追い払った。

「おい、スコール。他人様んちで、無体な真似に及ぶなよ、このヤロー。セフィは疲れているんだからな」

「バ、バカをいうな!いいからさっさと出て行け!」

 ドアを蹴り飛ばし、レオンはしっかりとカギを掛けたのであった。

「よし、これで邪魔なヤツはいなくなったな。セフィロス、濡れた衣を脱いで先に風呂に入ってくれ。ゆっくり肩まで浸かって100数えるんだぞ」

「…………」

「どうした?今夜は疲れているはずだ。湯浴みをして疲れを落として……」

「レオンと一緒がいい」

 とセフィロスはつぶやいた。

「い、一緒に……風呂に?」

 レオンがおそるおそるという様子で確認すると、セフィロスはあっさりと頷き返したのであった。

「そ、そうか、わかった。髪を洗うのを手伝おう」

 ふたりで浴室に赴き、服を脱ぐ。エスタ風の長い装束を身につけているセフィロスは、それをあっさりと足元に落とした。

 すでに何度も見慣れたはずの……しかしそれでも感歎の吐息をつかずにはいられない美しい裸体が目の前に晒された。

「どうした……なにをじろじろ見ている」

「あ、ああ、いや、すまん」

 と言って、レオンも上着を脱ぎ、シャツを下着ごとたくし上げた。