人形の城
〜キングダム・ハーツ外伝〜
<2>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 シドから預かっているディスクをコンピュータールームの解析用PCにセットする。

 本来なら、これから先の時間は、この椅子に座ってデータの分析を行わなければならないのだが……

 エンターキーを押し、スキャン状態にしたままで、さっさとCPルームを出た。

 今はデータの解析よりも、優先したいことがあったから。

 念のため、CPルームのセキュリティを再度起動させ、俺はいつもどおり、各部屋を巡ることにした。

 巨大兵器庫……そして、武器庫。古ぼけた蔵書だらけの図書室。専門書ばかりで俺なんぞが眺めてみても、何が記されているのかわからないものの方が多い。

 その中で、ハートレスやノーバディ関連と思われるものは、すべてマーリンの部屋に移動させた。俺やクラウドが解読しているのは、まさにその部分なのだ。

 

 ……図書室にはいないだろう。

 なんとなくそんな気はした。この場所は調査の関係で、俺以外の人間も頻繁に出入りするから。そう考えるなら、コンピュータールームなども、除外される。

 図書室を出て、いくつかの個室を巡る。

 なんといっても『城』という巨大さなので、部屋数はうんざりするほどにあるのだ。それをひとつひとつチェックしてゆくのは、ひどく骨の折れる作業ではあったが、家でじっとしているより精神的にはマシだった。

 クラウドのいるあの家に、セフィロスはこないと思ったから。

 なんとなく、俺とクラウドが一緒に生活している場所には、姿を現さないような気がした。

 確実に、どちらかひとりが居るだけというのなら別だが……

 今はそんな素振りさえ見せない。

 

 道続きに厨房や食堂まで調べる。

 長いこと使われていなかったその場所には、ただ蜘蛛の巣が無数に張られているだけで、俺の探す人の姿は見えなかった。

「……まぁ、誰も好きこのんでこんな荒れた場所にはこないか……」

 ため息混じりに苦笑する。

 『こんな荒れた場所』を探すのは、もうこれで十回目だったから。

 

 一階にある食堂を出て、ふたたび上層階に戻る。今度は東側の棟にある部屋を調べるのだ。

 ……おそらく、コンピュータールームでスキャンに掛けているディスクは、すでに終了しているだろうが……

 それは『捜し物』が終わってから回収しに行けばよい。

 

 

 

 

 

 

 シン……と静まりかえった廊下に、俺の足音だけが響く。

 

 セフィロスの居場所を知って、ふたたび彼と接触して……

 俺はいったいどうしようというのか。

 コスタ・デル・ソルに居た、もうひとりの『セフィロス』は屈強な人物で、すでに様々な葛藤を乗り越えた場所に居るような男だった。

 彼に言われた。

『中途半端に手を差し述べるな』

 と。

 俺の側にいるクラウドだけを守ってやればいいと。

 

 だが、今、こうして、ホロウバスティオンに戻ってきた俺は、一も二もなく、傷ついたセフィロスを探し回っている。

 結局アドバイスは聞き入れられなかったという結果なのだろう。

 

 アンセムの研究室のドアを閉じ、ここでもなかったとため息をつく。

 ああ、だが…… ここからは寝室が続きになっていたはずだ。おそらく研究に根を詰めたときに、すぐに横になれるようにという配慮で設置したのだろう。

 そういえば、以前、脇腹を負傷したセフィロスを、あの場所で手当てしたっけ。ソラの剣で抉られた深い傷痕だった。止血をし、きつく包帯を巻いてやって……

 彼のうめき声を聞いたのも、そのときが最初で最後であった。

 

 アンセムの研究デスクの引き出しから、寝室の鍵を取り出す。

 一番上の右端のキーボックス。目的のものはきちんとそこに収まっていた。

 

 ドアを開け、黒い影を探す。

 いや、一目でわかるだろう?それなりの広さはあるが、そんなにだだっ広い部屋というわけではない。

 窓から差し込む陽光の中に、探していた人の姿はなかった。

 苦々しい自嘲を、奥歯でかみ殺し、俺はため息を吐くと、扉を閉めようとした。

 

 そう、まさに部屋を出て行く寸前に気づいたのだ。

 天蓋付きのベッドの上、薄いオーガンジーの垂れ幕の内に。

「まさか……!?」

 俺は弾かれたようにきびすを返し、乱暴にベッドの垂れ幕を引っ張り上げた。きっとラグナのクソオヤジがいたら、

『スコール、無神経!』

 と、軽蔑のまなざしで見られただろう。

 

 果たして、その場所に、俺がずっと探していた人は居たのだった。

 あたかもおのれの寝台で休むように、まったく不自然さを感じさせない雰囲気で……