人形の城
〜キングダム・ハーツ外伝〜
<9>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

 

「……人家……か?」

 どれほど歩いたことだろう。

 いや、実際は、あの墓を見てから、それほど経っていないのかもしれない。

 かなりの早足で歩いていたせいか、軽く息が弾んでしまっていた。

 

 目の前の風景は、野原から、森に変わっていた。

 墓が途切れた先、少し入り込むのに躊躇してしまうような、鬱蒼とした森林が続いていた。

 不思議なことに、野原には、道らしい道などなかったというのに、この森には石畳の道があった。

 ……まるで道を違わぬようにとの配慮のごとく。

 

 俺は迷いもなく、そこに足を踏み入れた。

 先ほどからちりちりと胸を焼く焦燥感と、得体の知れぬ恐怖を払拭するためにも、前に進むしかなかったから。

 『見たくないものを見ることになる』

 その予感は、予感と言うよりも、事前に分かっていた……というか、ほとんど既視感に近いものであった。

 

 そして今、目の前に、人家が現れたのだ。

 

『家』とはいっても、俺の家みたいに、庶民的なものではない。

 石造りのそれは、こじんまりとはしていたが、『洋館』と呼んでやりたくなるような、瀟洒で重厚な作りをしていた。

 

 俺は革手袋をしたまま、玄関口の扉に手を掛ける。

 ……何の違和感もない。ごく普通の作りのものだ。

 力を込めると、それは容易に開いた。……あまりにも呆気なく。

 

 不用心だのなんだというよりも、まるで、今このとき、俺という来訪者がいるのを認知して、敢えて鉄のドアを開いて待っていたかのように……

「……誰か……いないか……?」

 返事はない。

 もっとも、期待して声を掛けたわけではないが。

 俺はズカズカと屋敷の中に足を踏み入れた。

 外は石造りであったが、中は重厚な木で出来ている。長い年月、磨き込まれ、飴色の照りが出ている……樫の木……だろうか?

 焦げ茶色の巨木のような柱……廊下も艶の出た木で出来ていて、俺が土足のまま足を進めると、ミシミシと抗議の音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 小振りな屋敷だけあって、部屋数はそう多くない。

 半地下になっている部分は、きっと厨房などと続いている倉庫なのだろう。

 いくつかの扉があるが、すべて確認しても、それほど時間はかからないだろう……

「……う……痛ッ……」

 軽く頭を振って、額を押さえる。こめかみに指を宛て、グッと力を込めてみる。

 ……おかしい。

 さきほどから……そう、この洋館に足を踏み入れてから、ずくずくと疼くような頭痛がする。

 頭頂部からこめかみに向かって、熱の固まりがうごめいているような……いやなカンジだ。激しい痛みではなく、鈍い疼痛なので、動くことに支障はないが、不快は不快であった。

 ズキンズキンと波打つ痛みが、心臓の鼓動と混ざり合って、耳元で響いている錯覚に陥る。

 この静寂の世界の中で、まるで俺だけが生きている人間のようだ……

 

 ……『私の世界』

 セフィロスはそう言っていた。

 それは何を意味しているのか…… 俺は、我々の住むホロウバスティオンのような、生活空間について訊ねたつもりだったのだが、どう考えてもここは日常生活を営む場所ではないだろう。

 

 『私の世界』を知ったなら、おまえは二度と私につきまとうこともなくなるだろう。

 

 セフィロスはそう言っていた。

 俺は手近にあった、扉を開いてみた。