〜パパ来襲〜
 
<5>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 

「『レオン』っておまえのことだよな、スコール」

 部屋の外から飛んでくる怒鳴り声を聞きながら、ラグナが言った。にやにや笑ってやがる。完全に楽しんでいると見受けられた。

 

「……まぁな」

「君の知り合いのようだな、『レオン』くん」

 とキロス。

「……ああ、まぁ……その……そうだ」

 オレは両手を組み合わせて、神に祈りたい気分であった。

 

「やっ! どいてよッ! ここに居るんだろッ! オレ、ちゃんと見たんだからッ!」

 クラウドの怒鳴り声が近くなってきた。

「……すまん、今日はここまでだ。また日をあらためて会おう」

 とにかくクラウドを宥めて連れ帰らなければ。怒って泣き喚かれては、手の着けようがなくなる。

「じゃ、失敬す……」

 

 バァァン!

 

 と、思い切り鼻面をブッ叩かれた。 

「グハッ! く……!!」

「レオンッ! やっぱここに居たんだなッ! なんでオレのこと置いてくのッ? 一緒に来させてくれたっていいじゃんッ!

「ク……クラ……」

 オレは鼻を押さえつつ、よろけた。

 ……かなり痛かったのだ。幸い鼻血は出ていないようだが、顔の真ん中がジンジンする。

「なんでオレに隠し事すんのッ? ひとりにしないでって、いつも言ってるじゃんッ!」

 相変わらず情緒不安定のクラウド。

 警備員に囲まれたところ、ようやくオレを探し当てて緊張が解けたせいだろうか。海の色の双眸に大粒の涙を浮かび上がらせた。

 ……まずい。

 クソ親父の手前、あまりにマズすぎる状況だ。

 

「あ、ああ、悪かった。……落ち着いてくれ」

「なんだよ、それっ! レオンはいっつもいっつもオレの言ってること、ちゃんと聞いてくれないッ!」

「……あ、ああ、すまん」

「そっかー、そうなんだ。人の話、まともに聞かないところは、昔のままだねぇ、スコール」

 脳天気な声に、クラウドがキッとラグナをにらみつけた。

 不審げな面持ちで、オレとヤツを交互に見る。

「……あの人、だれ? アンタのこと呼びつけるなんて……」

「あ、い、いや……」

 言えない……というか言いたくない。

「隠さないでよ、レオン! もしかして俺に言えないような……ううん、でもレオンよりずっと年上っぽいし……」

「ク、クラウド……! バカなことを考えるな。……仕事の話をしに立ち寄っただけだ。そいつは某国の行政官だ」

「ちょっ……それ、あんまりじゃない? スコール。ちゃんと紹介してよー」

 ぶぅぶぅとブーイングサインを出しながら、クソ親父が抗議した。

「……うるさい、ラグナ」

「まぁまぁ、スコールくん。そこの少年は君と親しい人なのだろう。口外されなければ話てしまってもよいのではないかな」

 落ち着いた口調でキロスが口添えした。

 そうだな、そうすべきなのだろう。

 というか、この状況ではもはやごまかしようがなかった。さきほどのキロスが口にした条件によれば、このクソ親父をあの家に連れて行かねばならない。そうなると、クラウドを別の場所に移すか……いずれにせよ、彼に状況を説明しないわけにはいかなかった。

 

 

 

 

「……クラウド、聞いてくれ」

 ひどく不安げに俺を見つめる彼に声をかけた。きっと諦めきった口調になっていたことと思う。

「……レオン?」

「……彼はラグナ・レウァール。再建協力国、エスタの大統領で……俺の父親だ」

「え……?」

「そして隣にいるのが、大統領補佐官のキロス・シゲール。有能な行政官だ」

 

「……お……親父……? レ、レオンの……お父さ……ん?」

 たっぷり一分近く黙り込んだ後、恐る恐るクラウドは確認した。

 俺は頷いた。そしてラグナに向き直る。

「……彼はクラウド。クラウド・ストライフだ」

「へー、クラウドくんね。初めまして、ラグナって呼んで☆」

 人なつこい笑みを浮かべ、手を差し出すラグナ。

 赤の他人と簡単に仲良くなれるのはコイツの特技だ。とても血の繋がった親父とは思えない。

「……あ、あの……オ、オレ……」

 手を取られるままに、ラグナ、キロスと握手を交わすクラウド。

 心ここにあらずだ。

「見たところ、スコールと仲良くしてくれてるみたいだね。どうもありがとう」

「い、いえ……あの……」

「ところで血相を変えて飛び込んできたようだけど、どうかしたのかな? 彼に何か急用でも?」

 ラグナの後に、握手したキロスが、やさしげな声音で……それでもそつなく理由を問うた。

「……あ……あ……オ、オレ……レ、レオンに……あ、いや、スコール……?」

「いいんだ、キロス。クラウドは俺が呼んだんだ。……その、ラグナを紹介しようと思ってな」

「だったら最初から連れて来いよ〜」

 ラグナが言う。

 ……空気を読め、クソ親父。

「……彼は俺と一緒に暮らしている。だから簡単にアンタを連れていけないと言ったんだ。クラウドの都合もあるしな」

「へぇぇ!スコールに同居人ね〜! おまえもちょっとは成長したみたいだな、吾が息子よ!」

「……え?」

 クラウドが不思議そうに親父を見る。

「いやー、昔から無愛想で人に懐かないガキでさ〜。まぁ、いろいろあったから、無理もないんだけどね。君みたいないい友人が一緒に居てくれるならパパも安心☆」

「……あ……そ、そんな……ことは……」

「いや、ホントだって。これまでまともに友だち紹介してくれたことなんてなかったんだからね」

「……あ、はい……」

 消え入りそうな声でクラウドが頷いた。

 俺はクラウドの横に立つと、口を開いた。やはりここは訂正すべきだと思ったし、俺たちの関係をラグナに知られたとしても、全くかまわなかったからだ。アホで脳天気な男だが、いちいち口出しをするような野郎ではない。

 ラグナに向かい直ると、何の躊躇もなく口を開いた。