〜パパ来襲〜
 
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 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時を置かず、数日後の夜、ラグナは簡単な手荷物だけで、単身やってきた。

 その日は朝からクラウドが落ち着かない様子だったが、不安や憂鬱でイラついているのではなく、好奇心でソワソワしているように見えたのだった。

 『絶対に居なくなったりしない』と約束してやったせいか、気持ちが落ち着いたのだろう。そのおかげで、今は単純に、俺の身内に対して好奇心が沸いているらしい。

 

「や、どーも、クラウドくん。ごめんね、いきなり」

「いいえ、こちらこそ。あの……よろしくお願いします」

「カタイなぁ。フツーにしゃべってよ。敬語とか、苦手だし」

 ……アホ親父が。

 なんという軽々しさ。

 出来ればクラウドには、コイツが実の父親などとは知られたくなかった。……今さらだとは思うが。

 

「ラグナ。この前も言ったが、ここに居る間はクラウドに迷惑を……」

「ちょっ……よしなよ、レオン。し、失礼だよ」

「そーだよ、失礼だよ!」

 キャッキャッとクラウドに調子を合わせるラグナ。

「図に乗るな、クソ親父。だいたいアンタは昔から鉄砲玉ヤロウなんだ。ひとりで大人しくしていてくれ」

「ちぇッ、なんだよ。スコール、俺の相手してくれないの?」

「知ってのとおり、俺は多忙だ」

「いいよ〜だ。クラウドくんと遊びに行くもんね〜」

「クラウドだって、再建委員のメンバーなんだぞ。いろいろ忙しい」

「え? あ、は、はい……あ、う、うん。も、もし、行きたいところがあれば、俺でよければ街の案内とか……」

 年長者とまともに対応した経験が少ないせいか、自己中心的なクラウドにしてはずいぶんと愛想がいい。

 

「ほ〜ら、オマエと違って、クラウドくんはやさしーからね〜」

 調子に乗るラグナ。

「ああ、そーかそーか。いずれにせよ、今夜はもう遅い。さっさと風呂に入って寝てくれ。部屋はこっちだ」

「あ、ちょっとォ。せっかく息子の家に来たのに、パパに感想とか聞かないの? ねぇ、聞かないの?」

 ラグナの後ろで、クラウドがくすくす笑っている。

「……別に。俺がどんなところに住もうがアンタには関係ないだろう」

「あるよ。パパだもん」

「そのパパって言い方よせ」

「じゃあ、お父様」

「それもヤメロ」

「ぷっ……あ、ははは! ああ、可笑しい。オ、オレ、レオンがそんなふうにしゃべるの、初めて聞いた」

 思わずといった様子で吹き出すと、クラウドはそんなことを言い出す。妙にラグナに対して好意的な態度に感じるのは、気にしすぎなのだろうか。

「……あまりまともに取り合わないでくれ、クラウド。この親父相手にはこれくらい言ってやらなきゃダメなんだ」

「レオンってば。よしなよ、せっかく来てくれたのに……」

「そうだそうだー、クラウドくんの言うとおりだー」

「黙れ、アホ親父ッ!」

「もういいよーだ。……ふーん、でもさァ。冗談はともかくとして、貸し家だっていうけど、雰囲気があっていいところじゃんか。庭の花にも風情がある」

 フムフムとわかったような口を聞くラグナ。

 こいつは、「風情」などという言葉とは、対極にいるような男なのに。

「あ、オレも初めてこの家に来たときそう思いまし……あ、そ、そう思ったの。庭の隅に……ほら、シロツメクサが見えるでしょう? ね?」

「どこどこ、あ、うん。あそこだけ白っぽくなってるね」

「でしょう? なんだか綺麗で可愛くて……この家も、小さいけど、とってもやさしいカンジがして、落ち着くなって……」

「そっかー。この朴念仁と違って、クラウドくんは物の見方が繊細なんだね」

「え……? う、ううん、オレは……全然そんなんじゃ……」

「いいじゃん。謙遜しなくたって。そういうとこ、すごくいいと思うし。話してて楽しいし」

「あ、ありがとう……」

「君みたいな子が息子だったらねー。パパもねー、もうちょっと楽しかったと思うんだけどね〜」

 当てつけがましく、ジロリと俺を見遣ると、ラグナはこれみよがしに言い放った。

 

 

 

 

 そんなこんなで、ラグナには自分の部屋を宛い、俺はこの前と同じように、クラウドの部屋に間借りした。

 ラグナとは気が合うようだったが、基本的には人見知りのクラウドだ。ベッドに横になっていても、なんとなく落ち着かない様子に見えた。

 ソファから、セミダブルの寝台に移動し、クラウドの横に入れてもらう。普段なら、自分の方からじゃれついてくるくせに、「ラグナに見られたらどうする」だの「声出すな」だの文句を言う彼。俺としては、別に知られたからといって、どうこうということはないのだが。

 興奮状態にあるクラウドを抱きしめ、おとなしく眠るように促すと、ようやく静かに目を閉じるのであった。

 

 ……おかしな言い方だが、最近は恋人……というよりも、俺の果たしている役割は、『母親』のような気がする。

 だが、まぁ、そうすることで、この不安定な青年が、やすらぎを得られると言うのなら、それはそれでかまわないと、そう思える自身が可笑しかった。