〜パパ来襲〜
 
<9>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

「スコール、おかわりッ!」

「レオン、おかわりッ!」

 ……朝っぱらから、妙に元気のいいふたりだ。

 いや、『朝っぱら』とは言っても、午前9時半過ぎ……俺にとっては一仕事終えた後だった。

 クラウドは言わずもがな、ラグナも寝坊スケだ。きっと、エスタでは補佐官のキロスが困惑していることだろうと思う。もっともあの有能な男は、そのあたりのことも計算に入れた上で、上手く立ち回っているのだろうが。

 

「おまえ、けっこうメシ作るの上手いな! このスープも美味い!」

 カチャカチャとせわしなくスプーンを動かしつつ、ラグナが言った。

「……それはクラウドだ」

「へぇ、幸せもんだなァ、スコール!」

「えっへん!」

 などと宣うクラウド。そう、スープだけは、ほんのちょっぴり早起きしたクラウドが、俺の指示に従ってこさえたものだ。もっとも、缶詰に少しばかり手を加えた半インスタントであるのだが。

 

「……でもさァ、ラグナさんって、レオンのお父さんだっていうけど、すごく若いよね……」

「イヤッホー!」

「メシの最中に騒ぐな」

「ううん、本当にそう思う。こんな大きな息子が居るなんて思えない」

「あ、やっぱしィ? よく言われるんだよねー、それ」

「脳天気で苦労がないからな。年を取りにくいんだろ」

「ラグナさん、モテるでしょ?」

「まーね。男にも女にもね〜☆」

「そういうのを節操がないと言うんだ」

 ……どれが誰のセリフだか、注記しなくとも、一目瞭然だと思われる。

 

「クラウドくん、ご両親は?」

「……あ、も、もう……ふたりとも……いなくて」

 ガンッ!とテーブルの下で、ラグナの足を蹴り飛ばす。

 俺が遠慮して訊ねなかったことを、いともたやすく口に出す無神経男だ。

「いってェェェ!」

「レ、レオン……別にいいんだよ。もう昔のことだし」

 そういうと妙に大人びた微笑を、彼は浮かべた。

「父は……オレがずっと小さい頃に死じゃったし、母親は……事故で」

 これは初耳だった。

 これまで口にしなかったところを見ると、あまり触れられたくないのだろうと思う。

「そっか……寂しいね」

「うん。でも今はレオンと一緒だし。あ、いや、変な意味じゃなくて! 独りぼっちじゃないしってことで……」

 ポッと頬を染めて、慌てて付け加えるクラウド。こんな様子は欲目でなく可愛いと思う。

 

「ふふふ。クラウドくん、格好いいけど、可愛いよね」

「オレ、もう23だよ?」

「そうなの? 十代かと思った」

 ズケズケとラグナが言った。

「やだなー。それはちょっとショックだよ、ラグナさん」

「いいじゃん。きっと30超えても20代で通るよ」

「男だもん。外見とか年齢とか、あんまし気にならないし」

「あー、それってさァ。友だちが言ってたんだけど、容姿に恵まれてるヤツの思考なんだって。やっぱブサイクなヤツほど、そーゆーの気になるみたいだよ」

「ふぅん……なるほど〜」

 ……なんというか……ほとんど「お友達」の会話である。

 というか、むしろ俺と居るときより、話が弾んでいるように見えるのは気のせいだろうか……

 

「スコールはさ、キリッとした目元とか、髪の色は嫁さん似なんだよね」

 唐突にそんなことを言い出す、ラグナ。

「そうなんだ……口元とか……全体的な雰囲気はラグナさんに似ているように見えるけど」

 じろじろと俺を眺めるクラウド。

 ……なんだか居心地が悪い。 

「あー、そーかも。ま、やっぱ子どもって夫婦の共同合作だからさ〜」

「嫁さんって……レオンのお母さんだよね。きっと綺麗な人なんだろうね」

「うん。面倒見のいい姉御肌の人だったよ。俺の命の恩人でさ…… 早くに亡くなったんだけど、それからはずっと独りだよ」

「……ラグナさん、寂しい?」

「うーん、そうだね。息子がつれないからねー。というのはまぁ、冗談として。仕事も忙しいし、回りに気のいい連中が居てくれるからさ。普段はわりと平気かな」

「そっか……やっぱ、強いんだね、ラグナさん」

 感心したようにクラウドがつぶやいた。紺碧の双眸に、尊敬の色が浮かんでいる。

「そんなことないってば。腕っ節とかだったら、絶対君の方が強いよ。昨日、大剣見せてもらったけど、あれ振り回せる人ってそうそう居ないでしょ」

「……ありがと。でも、人の強さって、そういうことだけじゃないもん。腕が立つからって、『強い』ってことにはならないと思う」

「うん……うん! そうだね。君の言うとおりだよ。でも、それ、ちゃんとわかってるって大事なことなんだ。というか、それを理解した上で、客観的に自分を見られるのなら、君はやっぱり大人だよね。十代じゃなかなかそうはいかない」

「えー、もしかして誉めてくれてる? なんか照れちゃう」

 そういうと、クラウドは片手を頬に宛て微笑んだ。地の白い彼の肌はすぐにのぼせて紅く染まってしまうのだ。

 ……しかし、妙に良い雰囲気で会話しているふたり。

 さすがにヤキモチを焼いたりはしないが、短い間とはいえ、ふたりが上手くいくか、やきもきしていた側としてはいささか面白くなかった。

 ……なんというか、取り越し苦労の分、鬱に感じるような気分だ。

 

「話は変わるが、ラグナ。アンタ、今日はどうするつもりだ。……クラウドは出掛ける予定があると言っていたよな」

「うん。マーリンの家、行かなきゃ…… あんまし行きたくないんだけどね〜。途中にしたままの資料があるからさ」

「あ、俺も出掛けるし」

 ラグナはあっさりとそう言った。